12 放っておいて
「あっ、ダメだよ。それはまだ」
「んー……?」
ワールは、作りかけのまかないをつまみ食いして小首をかしげた。
彼女の手から皿を取り返すと、厨房を仕切るスケルトンは黒い眼窩を向ける。
「まだ、できてないんだから」
「そうなんだー。でも味付けはしっかりしてるしー、うーん?」
皿には焼きたての鶏のグリルが乗っていた。皮のこんがり焦げ目が喉を鳴らす。
だというのにワールが食べたところでは、ぼんやりした味に感じた。
香り付けに使われたハーブもちょっと強目で、うるさく思える。
あったかい焼きたてがおいしくないというのは、彼女には不可解だった。
「いいから。ワールは店長なんだからちゃんと働きに出る」
「はーい。これ注文ねー」
注文票を置いたワールは、すでに準備されていたお菓子をトレイに乗せる。
くるりと踵を返す彼女を追い払うように、スケルトンは腕の骨を響かせた。
忙しい時間はまたたく間に過ぎて、まかないの時間。
午前中のものを片付け終えると、従業員はテーブルでお腹を空かせていた。
「疲れたー。今日のまかないはなーにかなー?」
「店長はしょうがないなー」
店長としての威厳もなく、ワールは両手にフォークとナイフを構える。
アンペザントの子は笑いをこらえながら行儀よく座っている。
もちろん、行儀の悪い店長を真似することもない。
「はいはい、ご飯の時間ですよー」
「やったー……んー?」
スケルトンたちがテーブルに並べる皿のうち、彼女は一つに目を留める。
それは先程つまみぐいして小首をかしげた鶏のグリルだ。
まだできてないと言ったところから、見た目はほとんど変わっていない。
それどころか、温め直した様子もなく冷たそうだ。
「文句は食べてから。そっちに足りないものある?」
「ふわふわ焼き多めに下さい。バターたっぷりで!」
「はいはい。それじゃあ食べてて」
客が多かったからか、従業員はみんなお腹を空かせてこの時間を待っていた。
子供たちはスープから手を付けて、冷たい鶏もおいしそうに食べている。
それを見て、ワールは試すようにスライスされた冷たい鶏のグリルを頬張る。
「……あっ、おいしー」
ぼんやりしていたはずの味は、しっかりと塩味が利いていた。
温度が冷めたせいか、キツかった香りは穏やかに変わっている。
おまけに、肉はしっとりとやわらかい。
「だから、できてないって言ったでしょう」
ふわふわ焼きとたっぷりのフレッシュバターを運んできたスケルトンは、ワールの席にも同じものを置いた。
彼女の言葉に頷いて、けれどワールは納得がいかない。
「これ、手を入れてないよねー?」
「手は入れてません。入れたのは時間だもの」
アツアツでおいしい鶏のグリルは、焼き加減が重要で目を離せない。
それにまかないの時間になれば、みんなお腹が空いて待てないのはわかっている。
だから彼女は、あらかじめ作っておいてすぐ食べられるものをと考えた。
「なるほどー。君はお菓子より料理に向いてるのかもねー」
もう一切れ口に放り込みながら、ワールは彼女のされこうべを見上げた。




