プロローグ(ナイト)
これは相当大昔、二次元応援サイトに連載していたパロディでしたが、サイト閉鎖に伴い、半分くらいアップしたところで終わっていたものです。
最近、ドラクエをまたやり始めたところ、この話を思い出し、最後まで出したい衝動が復活して掲載させていただくことにしました。
完全オリジナルに書き換え、当時は平気で「メ〇」とか「ホイ〇」とか書いていたのを、今回は普通名詞に置き換えたところが前回と異なっています(但し、一般的な名詞である「スライム」や「サタン」などはそのまま使っています)。と、いいつつ、ところどころ「ドラクエでは」とか「FFでは」などの引用部分はまんまで使ってますが。
ちょっと長いですが、話自体は(大昔に)出来上がっているので、なるべく早く全部掲載したいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。
島国であるアース連合王国、その第一の城は岸壁にそびえ立つことから、別名海の城とも呼ばれていた。
海を堀に利用したその荒くれた堅固な城塞は力の城と言うに相応しい。
物語はそこから始まる……
「ナイト」
その日、ナイトは珍しく母親に起こされて目が覚めた。
「ナイト、起きなさい、今日は王様に会いに行く日」
上半身を起こすと、優しげににっこり笑った母の顔が目に映った。
「私は今日まであなたを勇敢な男の子として育てたつもりです」
「はい」
そう、今日はアース連合王国三人王の一人、海の城の王に謁見することになっている。
「王様のおっしゃることを良く聴いて、何を言われても無事おつとめを果たすのよ」
何を言われても、という言葉に多少の引っ掛かりを感じつつ、ナイトは素直にうなずいた。
「はい」
そうして母が出て行った後、前の日に用意していた一張羅に着替えて階下に降りる。
だが、
(……しまった)
顔を洗って朝ご飯を済ますとすぐ登城するつもりだったが、運悪く玄関でばったり祖父に出会ってしまったのだ。
「おはようございます、おじいさま」
「もう、6時半だ。この時間におはようございますとはどういうことだ?」
「申し訳ございません」
祖父が廊下を指さしたので、仕方なくナイトはそこに正座した。
「わしはお前に勇者になれとは言わん。あれは運がものを言う。しかし、いつも勇者の資格を備えた男でなければいかん。寝坊することは勇者の資格のどの項目に反する?」
「……三項目の自己に厳しくあれ」
「然り」
祖父は頷いた。
「では、五項目目と六項目目は?」
「無欲であれ。人に尽くせ」
「七項目目は?」
「己から逃げず、本質を見極めよ」
「その通り」
と、そのとき、天の助けのように怪訝な顔の母親がこちらに向かってやってきた。
「ナイト、おじいさまとお勉強もいいけれど、王様に謁見する時は早い目にお城に入って待機するのが普通よ」
「おおっ!」
と、祖父は驚いた顔でこちらをつくづくと見た。
「お前ももう、そんな歳か」
今度は目を潤ませている。
話が長くなると困るので、ナイトは素早く一礼した。
「では、行って参ります」
「しっかりやるのだぞ!」
「はい」
昔から、サリヴァン家の者は十五歳になったら城勤めを始めると決まっている。
今日はその日であり、職務任命書を王直々に頂くことになっていた。
家から城まで五分、そして城に入ってから長い廊下を通り、謁見の間に行くまでに十五分。
幸い、今日は珍しく朝から海の王はそこにいた。
「おはようございます。王様」
アース連合王国は他国と違って、あまり堅苦しいことを好まぬ王が多かったが、中でも海の城の王は格別だった。
「ああ、サリヴァンとこの倅か、よくきたな、まあ上がれ」
だらしなく足を玉座の前にあるテーブルに乗せ、グラビア雑誌を片手に海の王は手を振った。
「今日からお前もこの城で兵士として勤めに励んでもらうことになる……と言いたいところだが」
祖父からはそう聞かされていたので、否定の言葉にナイトは心の内で首をかしげる。
「サリヴァン家の男は最初は一兵卒から、という家訓になっていると聞くが、お前にどうしてもやって欲しい仕事があってな」
ナイトは黙って続きを待つ。
「で、その仕事って言うのはうちの王子の次席補佐官だ。条件付きで貴族院でも承認された」
ナイトは瞠目する。
(……王子の補佐官)
王子養育係は王子付補佐官と次席補佐官が行う。
通常、それは次代の大臣と見込まれた人間が行う仕事だ。
(……が)
今回はそういう意味の抜擢ではないとナイトもわかっている。
海の王にはマリンと言う名の王子が一人いた。
だが、そのマリン王子は運動も勉学もそれなりにこなしてしまう子供であり、地位が高いためにちやほやされたのか、他人を尊敬することを学ぶ機会に恵まれなかった。
一人っ子であることから、年上の者を敬うという習慣もなく、愛想も悪い。
下々風に言えば、ガキのくせに偉そうな、人の言うことに耳を貸そうともしないような生意気坊主とでも言おうか。
とまあ、そんな王子様だったが、この間行われた武術大会で優勝したナイトは、余興で行われた王子相手の試合で鼻っ柱をつい叩き折ってしまった。
空気を読めと、後で散々周りから叱られたが、恐らくそれが海の王の目にとまり、王子の頭を押さえつけるお目付役として推挙されたのだろう。
「お前の家柄については、当然問題はない。だからまあ、肩ひじ張らずに励んでくれ」
サリヴァン家は代々この国の重鎮を務めてきた。
祖父はかつて、名高い硬派の将軍で海の城の軍事を一手に掌握し、引退後も奢らず質素な生活を貫き通していることで有名である。
母は現在内務省の事務次官を務め、国政に大きな役割を果たしていた。
「しかし、先ほど条件付きで、とおっしゃいましたが」
「それよ、それ」
ナイトの指摘に海の王はぽんとグラビア雑誌で膝を叩いた。
「どこにでも頭の固い奴はおって、そういう奴に限って他人の頭も固いと思っていやがる」
「は」
「つまりはお前のみてくれが『固い』という理由で、王子の輔弼には向かないと言う輩がいたってことさ」
ナイトは首をかしげる。
「第三者的に自分を振り返りましても、その言葉に間違いはないと思います」
生まれてこの方、人当たりが柔らかいと言われたことは一度もなく、そういう意味では現在マリン王子のお相手を勤めている……というか、一緒になってつるんで遊んでいる王子の乳兄弟たちの方が、王子の補佐には適任ではないかとも思う。
「まあ、そういうな、そのお陰で面白いイベントが官費でお前、楽しめるぞ」
「………は?」
「有り体に言うと、お前の見てくれだけが固いのか、本当に固いのかをテストして、それで柔軟性も併せ持つということであれば、晴れて王子付きの官職を与えよう、とそういうことになったわけよ」
海の王は豪快に笑う。
「お前自身が自分をどう思っているかは別として、俺はお前を買ってる。……言ってる意味はわかるな?」
ナイトは思慮深く頷く。
「陛下がそうおっしゃるのであれば、どんな試験でも必ず通る覚悟で臨みたいと思います」
「よし、よく言った!」
海の王は嬉しそうに立ち上がる。
「では、今からテスト内容を説明しよう」
彼は壁につるされた地図の一点を丸めた雑誌で指した。
そこにはアース連合王国第二の城がある。
アース連合王国はこの星の大陸としては中規模程度の大きさであり、三日月のような形をしていた。
その三日月の上の先端にあるのが空の城と呼ばれる第二の城、下の先端にあるのが大地の城と呼ばれる第三の城、そして内弦の中央に位置するのが海の城こと第一の城であり、それぞれが国を概ね三分割して統治していた。
「空の城についての暗い話は知ってるな?」
アース連合王国第二の城、別名空の城では、過去十五年間に何度も悲劇が繰り返されていた。
十四年前、愛らしく、また魔法の才能に溢れた御歳十歳の姫君が、突然来襲したブラックドラゴンなどの魔物に連れさられたのが悲劇の始まりだった。
空の城の王は王女を探すために多大な懸賞金をかけて予言者や情報屋を招いたが、理由も居場所もわからないまま今に至っている。
そして、王女探索のために呼ばれた予言者の一人である魔力の高い年取った魔法使いが、その年に生まれた次女の姫君にも何らかの悪い予言をし、それを気に病んだためか、王妃は弟王子を産んですぐに産後の肥立ちも悪く亡くなった。
それからは王は残った姫君を守るためという理由で城に強い結界を張り、魔物を寄せ付けないように頑張っていたが、四年前から予言が本当になるのを防ぐためといいながら、二の姫を高い塔に拘束し、何者も近寄らせないようにしているという。
「神経質にもほどがある」
海の王は肩をすくめた。
「十四歳、これからどんどんいい女になろうって姫を暗い塔に監禁するなんてとんでもない親父だ」
「……はあ」
「そこでだ、お前、俺の名代で第二の城に行き、姫を助けてやってくれ」
(姫が助けて欲しいと望んでいるのかどうかはどうでもいいのか?)
思いはしたが、王の手前取りあえず頷く。
「それから、ここが一番大事なところだが、ガキんちょの頃はともかく、年頃になってからの姫の顔を俺は拝んだことがない」
王は鼻の下をのばした。
「聞くところによると王女は絶世の美少女ということだが、それがホントなら、マリンの嫁にいいなと思ってるんだ。年も同じだし、ちょうどよかろう」
王妃たるもの必要なのは顔だけではない、と言う言葉をナイトは呑み込む。
「いいか、お前の最優先任務は、王女に会ってその顔を見て、美人かどうか俺にそれを報告すること」
「…………は」
「次に、そのついでに王女本人から悩みを聞き出し、どんな悩みでもそれを解決すること。それが今回のテストの内容だ」
ナイトは眉間にしわをよせる。
「空の城の王様から悩みをお聴きして、それを解決する方がよろしいのではございませんか?」
「馬鹿いえ、男の世話など焼かんでよいわ」
「……は」
「とにかく、年頃の女の子にうまく取り入って会い、しかもその悩みまで解決したとあっては、頭が固いなんて周りに言われなくなること請け合いだ、俺はやっぱり頭がいいなあ」
「…………」
ナイトは内心暗くなる。
このテスト、どう考えても自分にこなせるとは思えない。
だが、
「やれるだけ、やってみます」
「さすが、俺が見込んだ男よ」
王は再び座り、テーブルに足を載せた。
「明日の朝、七時に船が出る。それに乗ってあちらに行くがいい。俺の親書は後でお前の家に届けさせよう」
「かしこまりました」
なんとなく釈然とはしなかったが、ナイトは一礼して玉座の側から離れた。