終 幕
ふふ。計算違いはあったが、我が主さまが喜びそうな、なかなかよい物語に仕上がったものよ。なぜかあの男の魂を手に入れることができなかったが、良い。この物語にまつわるもう一つの魂、この女の絶望に染まった魂も良い供物になろう。昏倒から息を吹き返したところで、何も変わらぬ。女は、自死を選ぶだろう。そのときに、女の魂を手に入れれば良い。目的の、物語一篇とそれにまつわる魂一つ、きっちり回収完了だ。
しかし、男の魂を手に入れられなかったのはなぜか。間を逃したわけでも、なにかヘマを仕出かしたわけでもない。定められた手順をきっちり守って、これまで魂を奪うことに失敗した記憶はない。それだけが、気がかり。我が主さまにお調べいただいた方がよかろう。
「待たせたな、xxxxよ」
私は大きく飛び退った。この付近に、別の悪魔や精霊はいないことを確認している。しかし目の前の影は、人間や生物ではない。とすれば、かの影は、あの男の転生、しかも即時転生か・・・!人間からの転生でありながら、高位悪魔に突如として生まれ変わる。転生直後から膨大な知識を保持し、強大な力を行使する存在。単なる悪魔への転生では、今頃はまだ闇にうごめく小さな影に過ぎないはず。我が諱を呼び、このように威圧することなど不可能であろう。
我が主さまも、かつて即時転生で悪魔となられたと聞くが、あの男がそうなろうとは。しかし今はそれどころではない。高位悪魔に消されては堪らぬ。
私の考えていることを見透かすように、かの影は言う。
「私は、お前を消すことはしない。お前には、私と彼女を出合わせてくれた恩がある。彼女を壊し、魂を奪わんとしたことは、今この場では不問とする。去ね」
「わ、分かりました。しかし、我が主さまに報告せねばなりませぬ故、あなた様の行動の最後を見届けることを、お許しあらんことを」
私は膝をつき、頭を垂れ、恭順を示す。かの影は、うなずいたように見えたが、判然としない。昏倒した女に近づき、抱き上げ、しばらく佇んでいた。そして口の中で何か呟いていたかと思うと、女の胸から光が発し、闇に吸い込まれた。いとも容易く、血の呪いを解いてみせたのだ。
そして今度はかの影の周囲に魔法陣が現れ、光りを放ち、収束した後、かの影と女が消えた。転送魔法を使ったようだ。私は座標を計測する。女の家か。そこまで確認して、私は去った。恐らくこの後は、女に夢であったと思わせる細工でもするのだろう。さらにその後何をするのかは、私のあずかり知るところではない。手に負える相手ではないのだ。疾く帰り、我が主さまに報告することにしよう。
(了)
初めての投稿です。
題名に悩みました。
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