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彼女終

 彼は逝った。わたしは、取引の最後の条件を満たして、悪魔は血の呪いを解くはず。願いは成就した。しかし、殺人そのもの、彼を殺してしまったこと、悪魔の言うことに従ってしまったことなど様々な罪悪感、自分への憎悪、嫌悪。わたしは吐き気を抑えきれず、うずくまって吐いた。しかし肉体的にも、急速に体調が悪化してきた気がする。幼いころの、もっと言えば取引する前の感覚が、身体にもどってきている。おかしい。


 そんなわたしを見下ろすように、あの時の悪魔が立っているのに気付いたわたしは、息切れしながら訴える。


「ずいぶん、じゃない。早く、血の呪いを解いてよ」

「そうしたいのじゃが、条件が満たされておらんようじゃ」


 悪魔は、そういって首をかしげている。


「そんなわけ、ないじゃない。彼はわたしを愛した。だからずっと体調も良かったし、でも他の女と婚約までしたのよ。これは裏切りでしょ!そのうえで、わたしが命を奪った」


 わたしは苦しみながら、言葉を吐き出した。


「確かに事実はその通りじゃが、真実は異なるようじゃ。お前さんがツレは、真に裏切ってはおらぬ」

「え?」

「婚約したのは、あくまでお前さんのため。お前さんの血の呪いを解く方法を探すために、金と力を欲し、それがために婚約した、ようじゃ。それが証拠に、お前さんの体調は一度も悪くなっていない。そう、『ツレからの想いの強さにより、汝の健康状態は定まる』じゃよ。裏切って想いがなくなったなら、その時に死にはしないが、お前さんは普通ではいられんはず」


「そんな・・・そんなことって、そんなことがあり得るの?なんて、わたしは、なんてことをして、しまった・・・の。・・・アンタがわたしを操ったんでしょ!わたしは包丁なんて持ってなかった!殺したくなんてなかった。真実を話して、一人で消えるつもりだったのに」


「ふふ。この結末も悪くないぞ。魂は取り損ねたが、我が主さまに捧げるに相応しい物語が、できあがった。それとお前さん、わしは操ったりはせん。余計な手を加えると、物語がつまらなくなって、我が主さまが『りありてぃがない』と宣もうて、お怒りになることを知っているでな。わしがなしたのは、お前さんとの取引だけじゃよ。包丁を用意したのも、殺したのも、お前さん自身。お前さんの心の中にある願望、欲望、想い、そして鬼。それがあの男を殺した」


「なんで、なんで、こんなことに。なんでーーーーー!」


 わたしは悲鳴のような叫びを上げた。彼を殺してしまったことの絶望と、ほんの少しだけ残っていた希望が粉々になった絶望、もう何も考えられない。叫びながら、意味のない呪詛を吐き散らして、昏倒した、ようだった。


 仮に目が覚めても、彼はいない、私の寿命もあと本当に短い。このまま死んでしまって良いのに、ただ意識を失うだけなんて・・・。


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