彼女一
彼は東京の大学へ、わたしは地元の大学へ、進学先が分かれた。これで良かった。良かったんだと自分に言い聞かせている。彼といると、そのまま最期までいたいという気持ちと、心のどこかでは、救われるかもしれない自分を想像してしまって、結局穏やかに過ごすということができない。
彼は才能にあふれ、一途で、なぜかわたしのことを好きだって言ってくれて、献身的だった。あのまま暮らせるなら、他に何が必要だろうか。しかし、それは不可能であり、彼の一生を台無しにしかねない。だから。
大学もすでに4年生だ。生きている限り働くくらいはしたいと思い、地元企業の一般職に内定をもらっていた。
あとどれくらいの時間があるのかということに、漠然と想いを馳せながら、ゆっくり暮らしていこうと思っていた矢先、とある噂を聞いた。彼は大学の同級生と婚約した、相手は実業家出身の国会議員の娘らしい、などという。仙台に残っていた高校の同級生に、たまたま会った時に聞いた。
わたしと彼は、ある時までずっと一緒にいて、突然近づかなくなったのだから、ずっと付き合っていて、別れたと思われているようだ。高校の同級生も、あまり親しくないわたしとの話のネタに困って、その話をしてみたのだろう。
噂といえども、かつての恋人と言っていい相手の、しかも突然婚約とは、心が騒いだ。今更彼とどうこうなんて、と思う反面、運命の軛なのではないかと疑ってしまう。そんなことはあってはいけないとは理解しているし、自制的であることを幼い時から自らに課してきたつもりだった。しかし、その例外が彼のことについてだったわけだから、自分を見失うことがないとも限らない。
そんな漠然とした不安を抱えながらも、わたしは普通に大学生活を続けていた。4年生ともなると、あまり講義は多くないが、ゼミや論文の準備、内定先からの研修はあるので、それなりに忙しい毎日を続けているうちに、夏休みになった。
夏休みになって、講義やゼミはなくなり、何となくひと段落ついた感じがしていた、そんな日、件の同級生にまた会った。狭い市内、たまに会うことは不自然ではないが、運命の軛を思い返さずにはいられない。遠ざかりたかったのに、思わず、彼についてもう少し知っていることはないか、と聞いてしまった。同級生は、実は・・・と言って、夏休みで仙台にいるらしいこと、もし連絡を取るなら、と言って、連絡先を知っていそうな同級生の名前を何人か挙げた。そのうちの一人が連絡先を知っていた。
その日の夜、彼の連絡先が分かった。でもまだ引き返せると思いながら、彼に電話してしまった。
「久しぶりだね」
「・・・ああ。びっくりしたよ。どうしてた」
「ん・・・まあいろいろあったよ。どのくらい仙台にいるの?」
「2、3日かな。特に予定があるわけじゃないし」
「じゃあ、明日会えないかな。夕方がいいな」
「うん、わかった。高校の時と、同じ家に住んでいるんだよね?迎えに行くよ。午後5時頃に着くようにする」
「うん。待ってるね」
約束してしまった。どうするつもりなのか自分でも混乱していた。本当の気持ちと本当のことを伝えるのか、それとも願いを成就させるのか、どっちにしても、結末は想像したくない。でもこうなった以上、決着をつけなくてはならない。




