表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

彼女一

 彼は東京の大学へ、わたしは地元の大学へ、進学先が分かれた。これで良かった。良かったんだと自分に言い聞かせている。彼といると、そのまま最期までいたいという気持ちと、心のどこかでは、救われるかもしれない自分を想像してしまって、結局穏やかに過ごすということができない。


 彼は才能にあふれ、一途で、なぜかわたしのことを好きだって言ってくれて、献身的だった。あのまま暮らせるなら、他に何が必要だろうか。しかし、それは不可能であり、彼の一生を台無しにしかねない。だから。



 大学もすでに4年生だ。生きている限り働くくらいはしたいと思い、地元企業の一般職に内定をもらっていた。

 あとどれくらいの時間があるのかということに、漠然と想いを馳せながら、ゆっくり暮らしていこうと思っていた矢先、とある噂を聞いた。彼は大学の同級生と婚約した、相手は実業家出身の国会議員の娘らしい、などという。仙台に残っていた高校の同級生に、たまたま会った時に聞いた。


 わたしと彼は、ある時までずっと一緒にいて、突然近づかなくなったのだから、ずっと付き合っていて、別れたと思われているようだ。高校の同級生も、あまり親しくないわたしとの話のネタに困って、その話をしてみたのだろう。


 噂といえども、かつての恋人と言っていい相手の、しかも突然婚約とは、心が騒いだ。今更彼とどうこうなんて、と思う反面、運命の軛なのではないかと疑ってしまう。そんなことはあってはいけないとは理解しているし、自制的であることを幼い時から自らに課してきたつもりだった。しかし、その例外が彼のことについてだったわけだから、自分を見失うことがないとも限らない。

 

 そんな漠然とした不安を抱えながらも、わたしは普通に大学生活を続けていた。4年生ともなると、あまり講義は多くないが、ゼミや論文の準備、内定先からの研修はあるので、それなりに忙しい毎日を続けているうちに、夏休みになった。

 夏休みになって、講義やゼミはなくなり、何となくひと段落ついた感じがしていた、そんな日、件の同級生にまた会った。狭い市内、たまに会うことは不自然ではないが、運命の軛を思い返さずにはいられない。遠ざかりたかったのに、思わず、彼についてもう少し知っていることはないか、と聞いてしまった。同級生は、実は・・・と言って、夏休みで仙台にいるらしいこと、もし連絡を取るなら、と言って、連絡先を知っていそうな同級生の名前を何人か挙げた。そのうちの一人が連絡先を知っていた。


 その日の夜、彼の連絡先が分かった。でもまだ引き返せると思いながら、彼に電話してしまった。


「久しぶりだね」

「・・・ああ。びっくりしたよ。どうしてた」

「ん・・・まあいろいろあったよ。どのくらい仙台にいるの?」

「2、3日かな。特に予定があるわけじゃないし」

「じゃあ、明日会えないかな。夕方がいいな」

「うん、わかった。高校の時と、同じ家に住んでいるんだよね?迎えに行くよ。午後5時頃に着くようにする」

「うん。待ってるね」


 約束してしまった。どうするつもりなのか自分でも混乱していた。本当の気持ちと本当のことを伝えるのか、それとも願いを成就させるのか、どっちにしても、結末は想像したくない。でもこうなった以上、決着をつけなくてはならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ