表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界クビキリッパー!  作者: すね毛全剃りの刑に処す。
7/7

切り裂き魔とレノーラ

空の黒を橙が染め上げて、この世界も朝を迎える。幻想的な朝靄あさもやは山々を包み、街にある家々からパンの焼ける香りが漂っていた。


「む……。クソ眠い…………」


「…………おはようございます、クビキ様……」


「…………おはようございます、クビキ様……」


クビキが目を覚ますと、彼の腕にシスリアとエスリアが抱きついていた。彼女達も眠気に抗い、声を絞り出している。


「…………昨日言ってた髪、切るか」


「…………はい…………お願いします。クビキ様……」


「…………お願いします。クビキ様……」


ヴァネッサに仕事を紹介してもらう予定の時刻まで、少し時間がある。

クビキは昨日予定していた、シスリアとエスリアの髪の毛を切る事にした。


ーー(ハサミの代わりになるもの……)


彼は少し考えると、コートの内側に隠されていた、使い捨てのメスを取り出した。光沢感のあるそれは、落ち着いたデザインの部屋で、違和感を放ち、酷くミスマッチと言える。


「じっとしてろよ。俺が今よりもっと、いい女にしてやる」


クビキはシスリアとエスリアの髪をメスで切る。一定のリズムと、小気味よい音が部屋に響き、彼女達の髪の毛が床に落ちた。


「そういや、お前らは双子なのか?」


「…………シスリアが姉です」


「…………エスリアが妹です」


「お前らのような孤児達を預かる施設は無ぇのか?」


「…………? よくわかりません……」


「…………? 無いと思います…….」


「クソみてぇなこの世界も大概だな」


髪の毛を切り終え、メスをしまうと、姉妹を互いに向き合わせる。


「…………おー、短いです……」


「…………さっぱりです……」


「そんじゃ、俺は出かけて来るから、お前らは自由にしてろ」


シスリアとエスリアに留守番を頼むと、クビキは宿屋の一階に降りて行く。ヴァネッサに合図を送ると欠伸をしながら入り口の扉を開いた。


「それじゃ、ついておいでクビキ」


「ああ、頼む」


ヴァネッサに案内されて到着したのは、白壁に看板が吊るされた小綺麗な建物。ガラス窓付きの扉から店内の様子を伺う事ができる。

中を覗くと赤髪の眼鏡をかけた女性が一人、記録のようなものを記入していた。


「レノーラ。用心棒志願者だよ。審査してやってくれ」


「ヴァネッサか……。久しいな。用心棒志願者とはそちらの君か?」


レノーラと呼ばれた女性は眼鏡をかけ直すと、席を立ち、クビキの元へ近づく。

彼女はジロジロと蛇のように、ねっとりとした視線をクビキに向ける。


「私はレノーラ。君、名前は?」


「クビキだ」


「見たところ、武器は所持していないようだが……。何が得意なのかね?」


問いかけに対し、コートを開き無数のメスを見せるクビキ。


「剣術だな。闇討ち、不意打ちも得意だ。一身上の都合でな」


「フフ、隠し暗器か。しかし剣術と呼ぶには、その刃物は小さすぎないかね?」


レノーラが言い終わるよりも前に、刀を出現させ、抜刀。そして、そのまま彼女に斬りかかりかかる。

しかし振り下ろされた刀はレノーラの首すじ辺りで、ぴたりと止められた。


「不意打ちも得意だと言ったはずだぜ?」


「フフフ、面白い。いいぞクビキ。どういう仕組みかはわからないが気に入ったよ。ここでは警護や護衛、用心棒業務などの民間委託があり、とにかく強さが求められる。クビキ、その点に関して君は大丈夫だろう」


驚いた様子も無く、レノーラはくるりと背を向けると、業務依頼書が乱雑に広げられたテーブルへと戻って行く。そして、その中から一枚の依頼書を手に取ると、クビキに手渡した。


「簡単な仕事さ。その仕事を入社試験としようか」


ーー(読めねぇ……)


「悪い。レノーラ。文字が読めねぇ」


手渡された業務依頼書には見たことも無い文字が並んでいる。

辛うじて読めるのは『300,000D』という報酬金だけだった。


「そうか、クビキは文字を読み書き出来ないのか。……わかった。誰か一人パートナーとして君に付けよう。仕事内容とパートナーは明日説明するので、明日の今と同じ時間にここに来てくれ」


「ああ、わかったぜ。これから世話になる」


「こちらこそよろしく頼むよ」


クビキはヒラヒラと手を振ると、レノーラの店を出た。入れ違いで、遠くから駆けてきた、小さな少女が店の戸を開ける。


ーー(……ガキ?何でこんな所に……)


疑問を抱えつつも宿屋へと戻るために大通りを歩く。昼時ということもあり、食べ物のいい匂いが漂ってくる。


「お兄ちゃん、飴はいらないかい? 甘くて美味しいよ!」


露天商人が飴玉入りの袋を差し出して呼びかけた。看板には一袋250Dの文字が書かれている。


ーー(……ガキどもに買って行ってやるか)


「おっさん、二袋だ。二袋くれ」


クビキは500Dを差し出すと、袋入りの飴玉を受け取り、再び宿屋に向けて歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ