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異世界クビキリッパー!  作者: すね毛全剃りの刑に処す。
3/7

斬り裂き魔と武器防具屋店主


「……うぐぁ…………」


気が付くとクビキは、何処か冷たい地面に横たわっていた。とても冷たく、肌寒い。冬のような気候である。


「っは⁉︎ 刀がねえ‼︎」


辺りを見回しても刀が見つからない。路地道にあるのは閑散とした静寂だけだ。


ーー(まさか、寝ている間に盗まれたか⁉︎)


そんな考えが頭をよぎる。いきなりの異世界特典アイテムの紛失。詰みではないか。

どんな刀だった……?


ーー(とにかく思い出すんだ。どんな刀だった? 『備前長船長光』……モデルはその刀で……)


ーーガチャン‼︎


……ああ?


何処からかわからないが、刀が降ってきた。


………………。


「まさかな……?」


クビキは刀に、消えろと念を送る。


ーーファッ‼︎


見事に刀はクビキの前から消え去った。


ーーガチャン‼︎


ーーファッ‼︎


ーーガチャン‼︎


ーーファッ‼︎


ーーガチャン‼︎


「異世界とんでも設定じゃねぇーか‼︎」


イメージだけで消失と出現を繰り返す刀。消失している間、刀はどこにいったのか気になるが、クビキは深く考えない事にした。

こんな手品のような芸当ができる。クビキの心は少しだけ高揚した。


ーー(さて、とりあえずどうする? ここは異世界とやらだ。何らかの目標を立てて行動するべきだ。この世界で成り上がるってのも悪くはねぇが、正直そんなタマじゃねえ)


思考を巡らせながらも、刀の消失と出現を繰り返すクビキ。反復練習のおかげで、いつしか出現した刀をそのまま掴み、抜刀する事が可能になっていた。


ーー(とりあえず、小腹が空いたな……。異世界とやらの金もねえ。その前にご都合設定でちゃんと言葉は通じるんだろうな? こんな事になるならあのクソ神族にもう少し詳しく聞いておくべきだったな)


クビキがキョロキョロと辺りを見回すと、剣と盾のマークが描かれた、いかにも「武器防具屋」と、言わんばかりの看板が見えた。


ーー(人斬り以外は美学に反するが、あそこの店主には犠牲になって貰おうかね。俺に見つけられた事が運の尽きだぜ)


ーーカラン……。


木目調の古めかしい扉を開くと、低いベルの音が店内に響く。クビキは手を広げて店主のいるカウンターへと向った。


「やあ、やあ店主! ご機嫌いかがかな⁉︎」


「おや、お客さんか。機嫌なんてボチボチさ。本日はどういった要件で?」


ーー(あー、よかった。言葉は通じるようだな。なら問題はねえ)


店主からの返答で、異世界言語については問題無いという結論を導き出したクビキ。

彼は手に持っていた刀を店主の前にあるカウンターに提示すると、態度を大きく、低い声で告げた。


「この『刀』を売りたい。あー、この世界に『刀』ってもんが、存在するかわからねぇが、とにかく武器だ」


店主はクビキの顔と刀を交互に見つめながら、少し考えると、不気味な笑みを浮かべて口を開いた。


「はー、中々綺麗な剣じゃないか。斬れ味と刃こぼれがないか確かめるから、そこに座って待っていてくれ」


「なるべく早くしてくれよ」


ーー(さて、店主のあの顔。何かを企んでいるな。まあ、何かを企んでいても出来レースなんだが……)


しばらくすると、店主が店の奥から血相を変えてこちらに走ってくる。彼の顔色から見るに、只事ではない。というのは火を見るよりも明らかだ。


「お客さん‼︎ この剣、一体どこで⁉︎ 強度を見るために、軽く叩いた鉄ハンマーが斬れちゃったよ⁉︎」


ーー(いや、斬れねえだろ。鉄ハンマーは。頭ん中まで脂肪なのか? この店主は……)


クビキが店主に嘲笑混じりの作り笑いを向ける。しかし彼が手にしていたのは、本当に真っ二つになってしまった鉄ハンマーだった。


ーー(って、マジで斬れてるじゃねぇーか……‼︎)





ーー『ハッ! そんなん決まってんじゃねぇーか‼︎ 神族でも、チートでも、何でも斬れちまうような刀だ‼︎ それさえあれば、今すぐお前を叩き斬ってやる‼︎』




……。


…………あれか?


ーー(クソ神族に言ったあれのせいか? あの言葉の影響なのか? ってか、それじゃあこの刀は確実に……『チート』ならぬ『チートウ』…………)


「これは遠い異国、倭の国の宝刀でね。その昔、ドラゴンをも切り捨てた刀だ……。さあ、店主。あんたはこの国宝にいくらの値をつける?」


難しい顔で考える店主だったが、クビキの顔を見ると意を決したように口を開く。


「15万ディー……ーー」


「ーーおいおい‼︎ 店主さんよぉ?宝刀だぜ? この斬れ味だぜ? 嘘は良くないよなぁ? それをたったの15万⁉︎ 舐めてるのか?」


クビキには、この世界の物価などわからない。

ただ、彼が大きな態度と、低く凄んだ声で店主と交渉してきたのは、この時のための布石であった。

彼は店主にブラフを仕掛けたのである。


「……チッ、30万 ディールだ」


「なあ。店主。舐めるなって言ったよな?

滲み出る汗、瞳孔の開き、声のトーンに、カウンターを伝うあんたの脈拍。

30万Dって事はないだろう? もう一度言うぜ? あんまり舐めないでくれよ?」


「………………クソッ……50万Dだ。持ってけ……」


「ーーまいどありぃ! …………なあ、ついでに聞くけどこの国のパンは一ついくらくらいだ?」


「…………穀物パンなら100Dくらいだ。 ……用が済んだならもう出てってくれ」


最後の質問で、この世界の大体の物価を予想したクビキ。50万Dの入った金貨袋を手に店を後にした。

武器防具屋を出て、大通りを進み、彼は手頃な路地に入って行く。


「まずは、刀を消すイメージっと。 ……んで、刀を出すイメージだな」


ーーぱしっ!


出現したのは武器防具屋の店主に売った刀。クビキはそれを消失させ、出現させたのだ。

結果、店主の手元に残る物は何も無い。

少し気が引けるクビキだったが、早々に刀に付けられた値札を見て笑みを浮かべた。


『1500万D』


「あの野郎。50万Dでも足元見てんじゃねぇか。俺もまだまだ甘いって事だな」


彼は値札を引き千切ると、丸めて地面に放り投げた。


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