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ドラゴンな幼女はさいつよだぞっ  作者: シチリアメロン
1章
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プロローグ

処女作でっす

狭い室内にカタカタと子気味いいリズムでキーボードが音を立てていく。

エンター!タンッ!


カーテンの隙間から差し込む春の麗らかな日差しと窓の側に降り立った小鳥の鳴き声とマッチして、積みゲーが乱雑に散らばるヴァルハラ(笑)にこの上ない平和で癒し癒しした空間が出来ていた。


売れない作家である僕の居住空間は安いマンションの一室にある。

壁は薄く、隣人さんの立てた音が丸聞こえするため、いつもは大音量のギターの音やえっちぃ声(野太い)に顔を顰めながら過ごさなければならないのだが、今日から暫く、その隣人さんが海外旅行で居なくなるため、こうして久方ぶりの静かな朝を過ごせているのだ。


「ふぃ〜、いいぞ〜これ」


あったかいココアを啜りながら、オッサン臭いセリフを吐くがそれに対して答える者はいない。パソコンのモニターに映し出されるネトゲのアバターである金髪ロリを除けば、自分以外誰もいない空間。

かなしすぎるだろこれ。どうすんだよ。

いつもは騒がしくて鬱陶しいと感じる隣人も、こうしてみると何だか寂しく思うものだ。

彼女いない歴年齢の僕の心はどうやら隣人の存在が大きく占めてたみたい。キモすぐるね。

ダークサイドに傾きかけた思考を頭を振って打ち消すと、モニターに浮かぶ金髪ロリの方へと意識を向ける。


画面中央でポージングをとる彼女の名は 煽姫 。六時間前配信された非常に自由度が高いことが売りのオンラインゲーム『ニューワールド・オンライン』のために徹夜で作っためちゃくちゃ可愛い美少女アバターだ。


腰まである流麗で絢爛なパッツン金髪にルビーのような紅い目は煽姫ちゃんの白磁のような白い肌によく映えている。

美しくかわいい、そんな顔を極限まで目指したため容姿の良さは老若男女不特定多数のプレイヤーが存在する『ニューワールド・オンライン』でも上位に入るだろうと自負している。

そして黒を基調としたゴスロリドレスは早速ウン万円課金して手に入れたアイテムなのだッ!かわいいは正義。


種族は僕の趣味であるロリババア設定にするために異形種である竜種にした。

PKプレイヤーに狙われやすくなるが、僕のロマンの前ではそんなデメリットとも呼べないものは思考の片隅にもいることは許されないのだ。

ん?なぜパッツンにしたかって?これも僕の趣味だからだよ♡


外見だけではない、設定だって凝っている。

『三百年前滅亡した龍の国の姫であり、自国を滅ぼした1人の悪魔に復讐を誓うため、闇なる禁術に手を出した。そして(ry』

総文字数二万文字にも及ぶ膨大な設定を一夜で書き上げることが出来たのは単に設定厨であり、作家である僕だからこそだろう。

多分普通の人はネタが切れる。母ちゃんは金を貸してけろ☆と頼み込む俺に堪忍袋の緒が切れる。


「うひゃあ、やっべ、めちゃかわゆす。俺の半身で嫁とかもう神でしょこれうふふふ」


モニターの美少女に向けて、顔をだらしなく緩ませながら怪しい独り言を呟き続ける僕は多分色んな意味で末期なのだろうなと思いましたまる。

しかしながら、こうして馬鹿な思考をしていて尚キーボードを打ち続ける僕の指は何気に凄いのではなかろうか。

ポテチの塩に塗れた指が踊る度にモニターの向こうの敵キャラクターがマイエンジェル煽姫の手にかかって破壊されていく。

ドロップ品を無視して、ただただ敵キャラクターを駆逐していく様は修羅であった。俺修羅。

こうして有意義な時間を過ごしていると、突如としてぐ〜と情けない音が腹部から顔を出す。


「さて、もうそろそろ朝メシくうかー」


凝り固まった肩をパキパキと鳴らしながら背伸びし、その場から動くのも億劫だという体で部屋内に設けられた冷蔵庫へとぐぐーと手を伸ばす。気分はもう腕を伸ばす達人であるタコ。自分がいらない子過ぎてタコの如く深海に潜っちゃいたい。

冷蔵庫の中には昨日コンビニで買ってきたコーラが入っているのだ。

それとBLTサンドも。

思い切り冷蔵庫に腕を伸ばし、あと少しで冷蔵庫に指がつく!


そんな時だった。

外からキュイイイイインという黒板を爪で引っ掻く時に出る音を何倍にも増幅したかのような、とても耳障りな音が聞こえてきたのは。

いくらこのマンションの壁が薄いといっても普通はここまで大きな音が外から入ることは無い。

僕は何の音なのか確かめるべく重たい体を気合で起こし、窓へと向かった。


「なんなんだよーふんぎゃるべぇふぉ!?」


好奇心は猫を殺すという。

音の発生源を確かめるべく窓から外を覗いた俺は突っ込んできたでかいクレーン車に呆気なくぶっ飛ばされた。紙切れみたいに。

漫画のようにぶっ飛んだ。

滑空時間30秒くらい。体感時間だからアテにならないけどネ!

体にとんでもない圧力がかかり、腕と足が砕け散るところが視界に入る。

グロ画像は苦手なんだからやめてくれよなー。ホント耐性ないんだよ。

そして一コマも掛からず壁に叩きつけられ赤いシミと化した僕は最後の時まで自問していた。


ん?あれ?なぜにクレーン車?なんで?


答えるものはいない。家族も出かけてていない。

パソコンも見るからに酷くボロボロで、おそらく直ることはないのだろうね。

あっこれ死んだわ。

唯一の救いがそんなに痛みを感じなかったことか……。

僕の意識はプツンと、パソコンをコードから抜いて消したかのように、ブラックアウトした。

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