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主人公ってフツメン違うじゃん……立派なイケメンじゃん。

僕は今、洗面所のなかでorzの格好をしている。

というのは、何故か僕が夜桜 朔夜ちゃんになってしまった訳でして……。


どうせこの世界に来るのなら主人公ポジションが良かったと何度思ったことか。だってこの体だと朔夜ちゃんを四六時中見れるとはいえ、イチャイチャが出来ない。しかも、心は童貞、体は処女の謎生物になってしまったのだからね。


グダグダ、脳内で主人公になりたかった!と考えていると、スゥーッと洗面所の扉が開いた。そして、エリカさんが現れた。


「さーくや、まだ朝食食べないのー?

ッ!どうしたの!?どこか具合悪いの!?」

どうやらorzの格好をしている僕――朔夜を見て、具合が悪いと思ったようだ。血相を変えて洗面所に飛び込んでくる。

このまま不安にさせているのは可哀想だ。フォローでもしよう。

しかし、どういう口調で話し掛けようかな?高校生の朔夜ちゃんの口調ならわかるけど、小学生のロリ朔夜ちゃんの口調なんて知らない。


「大丈夫です。問題はありません」

とりあえず、高校生朔夜ちゃんの口調で話し掛けることにした。

すると、エリカさんは目を見開いたまま硬直してしまった。やはり、口調が間違っていたのだろうか。


「朔夜が……朔夜がやっと2年振りに喋ってくれた……!」

は……?

エリカさんが涙を流しながら、リビングの方へ走っていった。僕はそれを呆然と見送る。途中何かにぶつかるような音とイタッという声が聞こえたが大丈夫なのだろうか。

しかし、二年間実の母と話さないとは……朔夜ちゃん、何があったし……。エリカさん号泣していましたよ。


僕は何か釈然としない気持ちを抱えて、リビングの方へ向かう。

リビングに入ると、真っ直ぐにテーブルへ向かう。途中血走った目で「朔夜ちゃん……朔夜ちゃん……」と何度も呪詛のように呟くエリカさんが居たみたいだが、気のせいだろう。


朝食は、スコーンにコーンスープと意外にも庶民的なものだった。スコーンにはラズベリージャムが添えてあり、とても美味しかった。

食後、僕は朝食の載っていた皿を台所の流し台へと持っていった。そして、ご丁寧にも"さくや"と名前のかいてあるカップを棚から取りだして珈琲を淹れる。

そして僕は冷蔵庫のもとへ行き中を漁る。他人の家の冷蔵庫を勝手に漁るのは気が退けるが、今は僕の家だ。何も疚しいことではない。

そして目当てのもの、練乳を見付けると急いで淹れたばかりの珈琲のもとへ向かう。練乳の蓋を開け、珈琲に遠慮なく大量に投入。

これで即席MAXコーヒーの完成だ。

仄かに甘い香りのするカップに唇を当て、ゆっくりと喉に流し込んでいく。やはり、甘いは正義だ。


ふと、何の気なしに台所とリビングを結ぶ出入り口の方を見てみると、エリカさんがジーッと此方をガン見していた。正確に言うと僕の手にある即席MAXコーヒーの淹れてあるカップだ。


「飲みたいのですか……?」

そうエリカさんに問い掛けるとコクッと首を縦に振る。そういえば『少女理論とその辺り』の公式設定にエリカさんは無類の甘いもの好きというのがあったな。

ということでエリカさんの分とおかわりの分の即席MAXコーヒーを二杯作ると、リビングに行き椅子に腰を下ろした。


「朔夜……?どうしてまた、エリカとお話してくれるの?」

エリカさんが瞳をうるうるさせて尋ねてくる。なるほど、これは人気出るのもわかる気がする。この僕が不覚にも胸を高鳴らせてしまうとは……破壊力すごいな。

しかし、どうして二年間も朔夜ちゃんとエリカさんは会話しなかったのだろうか。こうしてエリカさんが尋ねてくるということは何かエリカさんが朔夜ちゃんを怒らせるようなことをしたのだろうか。


僕は然り気無く、二年前何があったのか探ることにした。


「貴女は、どう思うのですか……?」

僕はこのような曖昧な質問をエリカさんにした。こうすれば、簡単にエリカさんが二年前に何があったのか喋ってくれるかもしれない。

実の母親に貴女というのは少し他人行儀かな、と思っていると……


「さ、朔夜!エリカのこと動物プランクトンから格上げしてくれたの……!?」

嬉しそうにエリカさんが声を上げる。

朔夜ちゃん、実の母親を動物プランクトン呼ばわりって……酷すぎる。何だかエリカさんを見ているとだんだん痛々しく思うようになってきた。

とりあえず話の流れを修正するか。そういえば朔夜ちゃんって毒舌家なんだよな。


「話をすり替えないで下さい。貴女は話の流れを変えるのがデフォルトなのですか?そうだとしたら私の無知を詫びます。もう二度と話しかけないで下さい。

一応もう一度貴女に問います。貴女は私がどう思っていると思いますか」

大体こんなものか、朔夜ちゃんの毒舌って。僕は童貞だからよくリア充に対して毒を吐いているため、朔夜ちゃんの毒の部分も簡単に再現できる。あとは僕の口調をですます口調にすれば朔夜ちゃんの毒舌と同じようなものとなる。けど流石に言い過ぎたかな……?実際、エリカさん泣きそうな顔をしているし。


「ご、ごめんね。えーっとね。朔夜はエリカのことを許してくれているのかな?そのエリカが朔夜のドーナッツを食べちゃったこと」

エリカさんが顔を俯けながら言った。

どーなっつ……?ドーナッツを食べちゃった……?朔夜ちゃんってそんなことでエリカさんと二年間口をきかなかったのか……?

僕は朔夜ちゃんに対して畏怖にも似た感情をおぼえる。

容赦ねェなおい!


僕は今だ顔を俯けながら、手をギュッと握り締めているエリカさんに同情のこもった視線を向ける。

すると、そんな僕の視線にまた何かを言われると思ったのかエリカさんは肩を震わせながらさらに俯く。そんなエリカさんの様子が小動物に似ていて、僕はクスッと笑う。なんだか弄るの愉しいななんて考えてしまう。優越感って言うの?そんな感じ……。


「フッ、許す許さない以前に私は貴女、いえ失礼、単細胞生物さんのことは人として見ていませんよ。単細胞生物さんと二年間話さなかったのは単細胞生物さんが言語を話せないと思っていたからです」

僕は先程よりもさらにキツい口調で言い放つ。キツすぎて、何だかキツキツしてしまう。何を言っているのかよくわからないね。

それを聞くとエリカさんは顔を手で覆ってシクシクと泣き出してしまった。

そんなエリカさんを見て、僕は罪悪感よりも先に愉悦を感じた。しかし、僕はそんな愉悦を感じる自分に憤った。

これじゃ、僕を殺した彼奴と同じじゃないか……!


「冗談です。すみません」

僕は泣かせてしまったエリカさんの背中を擦りながら謝る。エリカさんは泣き腫らした目を服の袖でゴシゴシ擦ると、ニコッと笑った。快復早ぇーな!


「ううん、大丈夫だよ、朔夜。ほら、もうすぐ霧嗣君が迎えに来るよー」

エリカさんは玄関を指差しながら言う。そんな中僕は見知った名前を聞いた。

ん?霧嗣君?霧嗣君って……主人公じゃん。主人公が来てしまうんですか……?


坂上 霧嗣(さかがみ きりつぐ)。『少女理論とその辺り』の主人公であり、童貞である僕の敵だ。本編で過去のことは余り語られていないとは言え、朔夜ちゃんと小学生から知り合いだったとは……。チッ、爆発しろ。ただ容姿は本編だとわからないから、気になるといえば気になる……。


「さ、朔夜。エリカと仲直りの記念に霧嗣君を誘って、外食しよう……?」

主人公さんの事を考えていると、恐る恐るといった感じでエリカさんが僕に尋ねる。

二年間会話しなかった娘と早速外食とは……。気まずくならないのかしらん。まァ、異論はないけれど。

それにしても、霧嗣呼ぶのか……。小説とかでよくある世界の力とかなんとかで男に好意を持たせられるような事にならなければいいけど。


その辺の対処方法も探していかないとな。16歳になったら嫌でも本編に巻き込まれる。その前に……。


とりあえず、エリカさんが不安そうに此方をチラチラと見てくるのは、なんだか僕が悪者みたいだ。返事を返してやらないと。


「私は問題ありませんが、霧嗣さんに尋ねる必要があります。エリカさんが言い出したことですので、ご自身で尋ねてください」

すると、エリカさんの目がキラキラと輝く。そんなにも嬉しいのか……?


「うん!じゃーあ、エリカが霧嗣君誘うから朔夜、エリカのことエリカさんなんて他人行儀な呼び方じゃなくてエリカかママって呼んでね!」

何故か、呼び方のオーダーしてきた。ただ、エリカとかママって感じで呼ぶのは少し……いや、凄く恥ずかしい。

ということでNOと言える日本人である僕の上手なものの断り方を紹介しよう。このようにすれば必ず頼み事を断れる……筈だ。


「エリカかママと呼べば良いのですか?」

「うん!そう呼んでっ!」

「だが、断るッ!」

以上、上手なものの断り方だ。簡単だろう?「適当なこと言ってんじゃねーよ」などの異論反論は認めない。


エリカさんは目に見えるようにショボーンと落ち込んでいる。だけど、許して欲しい。本当に恥ずかしいのだ。


ピンポーン


フォローしようとエリカさんの肩に手を置いたとき、呼び鈴が鳴った。となるとついに霧嗣君とご対面かな。


僕はエリカさんが用意したという小学校への準備物を持って、玄関の方へ小走りで向かう。

正直言って会いたいとは思わない。だってあれだよ?美少女を将来何人も侍らせる人だよ?ダメージ受けるの僕だけだよ?それに僕童貞だし……。

それでも、僕が一時感情移入してプレイしたゲームの主人公を見てみたいという気持ちが上回る。

玄関前の扉の前に着くと、乱れた息を整え扉を開けた。

扉の先に居たのは、筋肉もりもりマッチョマンの変態であった。


――なんていうことはなく、茶髪の爽やかな超イケメン小学生だった。


ん?誰だろうか……。確か、霧嗣君はチュートリアルだとどこにでも居そうな普通の顔だと説明しているし、誰なんだろうか。


「どなたでしょうか?」

僕の記憶が正しければ、こんなイケメンが出てくるシーンなどなかった。ほんと誰だよ……。


「え?何を言っているんだい?坂上だよ、坂上 霧嗣」

ご丁寧に名字、名前をセットにして教えてくれた。霧嗣ねぇ、というか何こいつ?全然"どこにでも居そうな普通な奴"じゃないよ。イケメンじゃん。むしろ希少じゃん。

僕ははぁと溜め息をつくと、霧嗣もといイケメンリア充の方に目を向ける。

茶髪を短く切り揃え、顔立ちも良いイケメン野郎。童貞な僕はこいつを見るだけで、SAN値がガンガン削られていく。


「どうして生きているんですか。粗大ゴミさん。さっさと処理されてきてください」

「き、今日はいつも以上に手厳しいんだね……」

糞リア充は困ったような顔をする。そんな顔でもイケメンだとは……。僕はキシャーってな感じで威嚇する。


「ハハハ……、その朔夜ちゃん。早く学校行かないと俺たち、今日日直当番だよ」

「そうですね。早く逝きましょう。霧嗣さん」

「いや、朔夜ちゃん、何か言い方が……」

全く、普通な顔なんて言いやがって……イケメンがッ。彼女と一緒に死に晒せ……!


そうして僕はイケメン糞リア充さんと共に小学校へ行った。

学年やクラスなどは連絡帳にかいてあったので問題なし。


そして学校が終わった後、エリカさんとイケメン糞リア充と僕の三人でファミレスへ行ったのであった。








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