episodeⅠ 天津狐
はじめまして。
久遠 辿と申します。
手探り状態での初投稿となりますので至らない点が多々あるかと思いますが,是非ご指摘願うと共に,楽しんで頂ければ幸いです。
戦場から少し離れた森に,黒色の東洋の衣服を纏った獣耳の青年が佇んでいた。髪は衣服と同様真っ黒で,獣耳と尻尾もまた夜空を切って貼ったような黒色。憂い気な瞳は彼岸花のような濃い紅色をしている。そして首には銀の鎖が埋め込まれ,そこから少しの血液が入った小瓶が提げられていた。
彼は数多くの妖の中の“天津狐”という種族の一人である。
名前はクロ。たまたま一緒に見つかった白い天津狐,シロと共に聖戦に駆り出されることになった。見た目こそ若いものの,実の齢は百を超えている。首の小瓶は自らの血を貯めて妖力に換えるためのものらしく,日常生活や戦闘で術式を組むと中の血液がぐっと減る仕組みだ。彼のように埋め込んだ鎖から提げる者は殆どいないが,それについては彼の過去に遡る必要があるためここでは割愛する。
一度森から出ればすぐ戦場に足を踏み入れることになるので,僅かに失速した銃弾が頬を掠めるようになる。流れ弾も特に気にせず,クロは瓦礫の裏に隠れている小さな影を見た。絹と同じ程艶やかな白色の髪,大きな淡い桃色の瞳。後ろから小突かれ振り向いた彼女は嬉しそうに叫んだ。
「待ってたれす,クロさん!」シロは流れ弾を避けるようにしてクロの隣に立つと,血液の入った瓶を取り出して地面に手をついた。続けて囁くような声で術式の生成に必要となる魔導書の一節を唱えた。
「汝,世ノ理ヲ司リシ者ヨ。我望ム座標ヘ送リ給エ」
一瞬の間を開けて,2人の足元に血文字で何かの記号の羅列が現れて旋回し始めた。記号列が消えた頃には,2人の姿はその場から消えていた。