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森の花嫁  作者: 枳殻
最後の花嫁
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4話

「迷信ではありませんわ」


 帝国からの使者にわたしは言う。森の花嫁となる身でどうして帝国語が必要なのかとお兄様に文句を言ったのは間違っていた。帝国語を習得していてよかったと心の底から思えた。おかげでいくらでも言い返すことができる。


「王女のわたしが森に身を捧げるのは古くから繰り返されている決まり事なのです。決して迷信などではありません」


 背の高い男だった。雪のような銀の髪。冷たい青の瞳を持つ彼はわたしが感情的になり、声を荒げようとも、自身の穏やかな態度を崩すことはなかった。


「姫。あなたはとてもおかわいそうな方だ」


 わたしは失礼な使者をにらみつける代わりに目を伏せて、カップに熱いお茶を注ぐ。


 それをわたしに言っていいのは、憐れんでいいのはラウルだけ。


 許しているのは――ラウルだけだ。


「私はその残酷な決まり事を迷信だと申し上げているのです」

 使者はゆったりと紅茶を飲みながら穏やかに繰り返す。


 帝国からの使者は表向きは友好国への弔問客として訪れた。国王が崩御し、葬儀を終えたばかりの城は悲しみに沈んでいた。だからこそ、その隙を狙うように現れた使者に侵入されてしまったのだろう。弔問の気持ちだけ受け取ってすぐに放り出せばよかったものの、言葉巧みな使者の言うままに逗留を許してしまったのだ。


 まだお兄様が即位していないとはいえ、帝国からの使者をもてなすのは次期国王たるお兄様か、重臣あたりが適当だとわたしには思えた。


 それなのに、なぜか、いままで表に出ることもなかったわたしが使者の相手を押し付けられてしまったのである。


『このような辺境の国にまで偉大なる帝国からわざわざ弔問に訪れてくださったんだ。王女のお前が使者殿をもてなすのは当然のことだろう』


 困惑するわたしにお兄様はそう言った。


『気負うことは何もない。礼儀を忘れなければそれでいいよ。あとは、使者殿とお茶を飲みながら、楽しく話してごらん』


――楽しくなんて。


 そんなの無理だわ。お兄様。


 会話を楽しむどころか、最低限の礼儀を保つことさえ難しい。日に日に失礼な態度になっていることもよくわかっている。


 それなのに、使者は連日わたしとお茶を飲みたがった。悔やみの言葉を言い、力になりたいと慰めながら、森に身を捧げるのは愚かなことだと繰り返し断じるのだ。


 彼はなぜわたしに失礼なことばかり言うのだろう。早く帝国へ帰ればいいのに。


「使者様。これは決して迷信ではありません。日が消える日に王女は森に身を捧げる。それがこの国の王女として果たさなければならない責務なのです。そうしなければ、この国は深い森の中に飲み込まれて、真っ暗闇になってしまうのですから」

 わたしは落ち着こうと冷めきった紅茶を口にする。


「時折太陽が消えるのは何もこの国だけで起こることではありません。帝国でも同じことが起こりましたが誰も怖がりませんでした。なぜだかわかりますか、姫。これは過去に何度も観察されている日蝕と呼ばれる事象だからです。たとえ、真っ暗になっても必ず太陽は戻ってくるのだから、何も恐れることはない。むろん、帝国の民なら誰でも知っていることです」

 使者は静かに言って、わたしを見据える。


「この国は森に閉ざされた静かな国です。他国からの侵攻に恐怖を覚えることもなく、時の流れを止めてしまったかのように穏やかに暮らしておいでだ。だが、その反面、正しい知識が広まることはありません。そのせいで到底信じがたいような迷信に惑わされてしまうのですよ」

「ですから、何度も申し上げていますように、迷信ではありませんわ。帝国で起こる日蝕とこの国で日が消えることはまったく違うことなのです」

 わたしは使者を見据える。帝国からの使者を相手にずいぶんと無礼な態度だとわかっていても、止められない。

「わたしが森に行けば、森の恵みでこの国はよりいっそう豊かになります。森の加護さえあれば、帝国のご厚意こそ必要ないのです。それに、帝国の属国となれば、多大な税を納めなければならないと聞いております。この小さな国の民の働きだけではとても納めきれない量でしょう。民が飢えてしまいますわ」

 言いすぎているのはわかっていた。無礼をとがめられるのを承知で口にしたのに、使者はわたしの反応をおもしろがるように微笑みさえ浮かべている。


「帝国はそこまで恐ろしい存在ではありませんよ。民を飢えさせるなどと本末転倒なことはいたしません。当然、多少の見返りは求めますが、それでもじゅうぶんに民が暮らせる程度です。この国が晴れて帝国の一部ともなれば、帝国は民の教育への助力を惜しみません。皆に帝国の知識がもたらされれば、誰もくだらぬ迷信になど惑わされなくなる。森の加護よりも、よほどすばらしい恵みをもたらすことでしょう」


「そんなことありませんわ。この国には森こそが必要なのですから」


 もはやわたしは取り繕うことも忘れて、微笑み続ける使者をにらみつけた。


「わたしが森に行かなければこの国は滅びてしまうのです。この国があり続けるために、この国に森の恵みをもたらすために、わたしはどうしても、この身を捧げなければならないのです! 森の花嫁はわたししかいないのですから!」


 沈黙が落ちて、使者の顔から笑みが消える。

「――ああ。そうか。やはりあなたはおかわいそうな方だ。あなたはさきほどから何をご覧になっているのですか」

「何って、わたしの、目の前には――」

「そう。私しかいない。それなのに、あなたは私ではなく他の誰かを見ている。いま、愛らしい頬を染めて必死で訴えていらっしゃることも、私にではなくその誰かに言っておいでなのでしょう。国のためでもなく、民のためでもない。あなたにはどうしても、森の花嫁とならなければならない理由があるのですね」

 わたしは言い返そうとしたのに、言葉が何も出てこなかった。

「無駄に命を捨てることを望むほど、お気の毒なことはありません。おかわいそうな、うつくしい姫君」

「わたしは命を捨てるのではありません。森の花嫁となるために、人としての身を捨てるだけですわ」

「花嫁、ね。ただの人身御供をうつくしい言葉に言いかえるのは感心しないな。――悪趣味だ」

 使者は吐き出すように言って、立ち上がる。

「どうやら、ずいぶんと長居をしてしまったようですね。そろそろお暇いたします。――ご無礼をお許しください。姫君」

 使者は優しく微笑んで、優雅に礼を取る。

「いいえ。わたしこそ、礼儀を忘れた振る舞いをいたしました」


 「失礼をお許しください」とわたしは精一杯気を張って丁寧に頭を下げる。気の長そうな使者だったが、今度こそ、わたしのことを頑固で礼儀知らずな娘だと思ってあきれ返ったことだろう。




「お兄様。わたし、北の離宮に帰りたいわ」

 ようやく執務室から出てきたお兄様を捕まえて、わたしは訴えた。お兄様は護衛に目くばせすると、手近な部屋にわたしを連れ込んだ。

「どうしたんだい。私の小さな姫。ずいぶんと疲れた顔をしているね。熱いお茶を持ってこさせようか」

「お茶なんて、そんなもの、いらないわ!」

 声を荒げてしまって、わたしははっとする。

「――ごめんなさい。怒ったりして。お兄様だって、お疲れになっているでしょうに。お兄様はお茶を欲しいかしら。女官を呼んできましょうか?」

「いいや。私なら大丈夫だよ」

 わたしはお兄様が促すままに柔らかな布張りの椅子に腰かける。

「ずっと一人きりにしてすまなかったね。父上が亡くなられたばかりで、お前も気落ちしているだろう?」

 お兄様が椅子の前に跪き、わたしの手を取る。

「わたしなら、大丈夫よ。わたしよりお兄様の方がとても悲しんでいらっしゃるでしょうに」

 わたしは顔をうつむける。


「それで、どうして北の離宮に帰りたいんだい? お前には帝国からの使者殿のお相手をお願いしただろう?」

「わたし、今日、使者様を怒らせてしまったの。失礼なことばかり言ってしまったし、あの方は、もう、わたしに会いたくないのではないかしら。これ以上ここにいても皆の迷惑になるばかりだし、早く北の離宮に戻って、森の花嫁となるまでの時間を静かに過ごしたいわ」

「お前が誰かを怒らせるなんて、珍しいこともあるもんだね。一体、何があったんだい?」

「だって、あの使者様、とんでもないことをわたしに言うんですもの。森の花嫁になるなんて愚かなことだと、そんな失礼なことばかり言うのよ。わたし、春には森の花嫁となるのに、そんなの迷信だとか、帝国の属国になればそんな必要はないのだとか」

「姫」

 お兄様は優しく言う。

「お前は本当に森の花嫁になりたいかい?」

「もちろん、そうだわ。なりたいに決まっているでしょう!」

 わたしは強く言って、お兄様を見る。

「どうしていまさらそんなことを聞くの? だって、お兄様。わたしは、森の花嫁となるためにずっと生きてきたのよ。お兄様もずっと言っていらしたでしょう。わたしは森の花嫁となるのだって! わたししかいないのだって!」

「そうだね。けれど、その必要がないとしたら、どうしたい?」

「――そんなの」

 わたしは言葉に詰まった。

「考えたこともなかったい?」

「ええ。当たり前でしょう、お兄様」

 かすれた声で答えると、お兄様は優しくうなずく。


「そうだね。それも当たり前だ。お前はいままで森の花嫁となるのが当然だと考えて育ってきたのだからね。私もずっとお前に言い聞かせてきた。森の花嫁となるのがお前の幸せなのだと。――だが、忌まわしき慣習はもう終わりにしてもいいだろう。お前はもう森に行かなくてもいいんだよ」

 お兄様は優しく微笑む。

「何を言っているの。お兄様。わたしが花嫁にならなければ、森がお日様を隠してしまって、ずっと夜が終わらなくなってしまうのよ」

「帝国の使者殿が言うとおり、もしも、そんなことが起こらなかったとしたら?」

「起こるわ。ずっと夜が続いてしまって、この国は森に飲み込まれてなくなってしまうのよ」

「起こらないよ」

 お兄様は跪いたまま、わたしを抱き寄せる。

「そんな恐ろしいことは起こらない。決して起こらないんだよ。私の姫」

「どうして、お兄様にそんなことがわかるの。だって、もうすぐお日様が隠れてしまうのよ!」

「そういった現象はたびたび起こることなんだ。けれど、古くからある迷信というのはどうにも根深くてね。もうすぐお日様が隠れるからと、必然的にお前は森の花嫁とさせられ、父上もそれをかばいきれなかった――」

 お兄様はわたしを抱きしめたまま、髪をなでる。

「父上もたかが迷信のために娘を死に追いやるなんて、親としてどれだけつらかったことか」

 お兄様は嘘をついている。だから、わたしと目を合わせることなく、髪をなでている。

「本当に――弱い方だ」

 ささやいて、わたしをきつく抱きしめる。

「けれど、弱かったのは私も同じだ。森の花嫁となることがお前の幸せだと、言い聞かせるしかなかったんだ。お前にも、私自身にも。けれど、その必要はもうないんだよ」

 お兄様はわたしを離して、立ち上がる。

「でも、お兄様。わたし、森の花嫁になるわ。――どうしても、なりたいのよ」

「ああ。お前の気持ちはよくわかるよ。だが、この件については、今度またゆっくり話し合うことにしよう。さあ、もう休む時間だ。疲れただろう、私の姫」

 お兄様はダンスに誘うように手を伸べる。

「それに、どうやら、帝国の使者はお前をお気に召したようだよ。さきほどもお会いしたんだが、ぜひ、お前を帝国に連れて帰りたいとそうおっしゃっていた」

「そうなの。悪趣味な軽口がお好きな方なのね」

 わたしは使者の言葉を思い出しながら、軽く答える。

「それはどうかな。私の姫。さあ、明日からも王女として、きちんと勤めを果たしてくれるね。使者殿のお相手は任せたよ」

「ええ。――それがお兄様の望みなら、使者様のお相手は務めるわ」

 わたしはお兄様の手を取り、立ち上がる。


 それから、わたしの部屋へと送り届けてくれるまで、お兄様は一度もわたしの方を見なかった。




 お兄様の言った通り、帝国からの使者は怒っていないようだった。怒るどころか上機嫌で、使者はわたしに帝国がどんなに豊かですばらしいところなのか語り始めた。


 帝国の道はすべて石畳が敷かれ、壮麗な建物ばかり並び、建物に入れば、誰もを魅了するような絵や彫刻、あふれんばかりの蔵書がある。色とりどりの美しいドレスや宝石で身を飾ることもできるし、各国の技巧をこらした料理や甘いお菓子、珍しい果物が食べることもできるのだという。


「あなたが帝国に連なる者となれば、それらがすべてあなたの手に入るのですよ」

「まるで夢のようなことをおっしゃるのですね」

「いいえ。夢ではなく、現実に手に入るのです。あなたはとてもおうつくしい方だ。ちょうど帝国の第三皇子殿下がご自身の花嫁にふさわしい方を探して、諸国を旅されているのです。あなたは花嫁にふさわしい方だと思いますよ」

「まあ、こんな辺境の地の田舎娘が皇子殿下のお心を射止めるだなんて、ありえないことでしょうに」

 そっけなく答えると、使者は笑う。


「いいえ。あなたのようなうつくしい方は帝国にもいないでしょう。きっと、殿下はあなたを愛される。私は殿下をよく知る立場にあります。現人神であられる皇帝陛下までもがあなたに魅せられてしまうかもしれません。もっとも、そうなっては困りますがね」

「そう言っていただけて、光栄ですわ。けれど、わたしはこの国の王女です。森の花嫁となるわたしが、この国を出て、森から離れることはないでしょう」


 翌日からも使者は語り続けた。


 帝国に来ればいい。

 あなたが皇子殿下の下に行けば、この国も守られる。民思いのあなたのために、この国は特別に扱うことを約束しましょう。 


 帝国の使者は国の重鎮たちにも次々に近づき、甘い言葉をささやき続けた。

 国を支え続けた彼らさえ、次第に揺らぎ始めた。


 森に花嫁など必要ないのではないか。森の恵みも次第に減り始めている。帝国の一部となった方がむしろ豊かになるのではないか。


 そうだ。帝国に恭順を示すためにも、王女は帝国へと捧げるべきだ。


 いいや、何を言う。


 貴様らは帝国の犬となり下がるか。誇り高き我が国を貶めるつもりなのか。


 森の怒りに触れ、この国が森に飲み込まれてしまったらどうするのだ。


 王女には古くからのしきたり通り、森の花嫁となっていただくべきだ。


 奥深い森に包まれたこの国は静かな森のごとく、争いなど知らない国だった。


 それなのに、諍いは日を追って大きくなり、王城は怒号で満たされていく。


 帝国からの使者は出立前にこう言った。


「あなたは最後までうなずいてくださらなかった。仕方がありません。真実を申し上げましょう。実は私が花嫁を探している皇子なのです。セドリックと申します」

 正体を明かしても驚かないわたしに、使者は微笑む。

「驚かれないのですね」

「そんな気がしていましたもの」

「それなら、この告白ならどうでしょう。私はあなたを愛している」

 まるで熱のない告白にわたしは微笑んだ。

「おや、驚かれないということは、それも悟られていましたか」

「だって、嘘ですもの」

「いいえ。嘘ではありません」

 使者もまた、おもしろがるような笑みを浮かべる。

「あら、嘘ではないのなら、軽口だと申し上げた方がよろしいのかしら。あなたはただわたしを珍しがっていらっしゃるだけでしょう? 目新しい玩具のように見ていらっしゃるだけですわ」

「――ああ、そうですね。そうかもしれない。ですが、玩具の何が悪いのですか。玩具だって、場合によっては宝物にもなりえるでしょう。側に置いたら、気が紛れそうだ」

「いいえ。わたしが無聊の慰めになるとも思えませんわ。つまらない田舎娘なんてすばらしい帝国にお帰りになってご覧になったら、きっと色あせてしまいますもの」


 わたしは初めて、まっすぐに使者の――皇子の青い瞳を見た。


「セドリック皇子殿下」


 冷たい冬の空のような瞳。たぶん、わたしはこの人のことが嫌いではない。お兄様以外で、初めてこんなに言葉を交わした人を嫌いになれるはずもない。


 だから、わたしはまるで心のこもらない言葉遊びをやめて、本音で話す気になったのかもしれない。


「わたしの身に着けたこのドレスは森で採った木の実から作られたものです。わたしの髪飾りも森の木の実から作られたもの。帝国の御方から見れば粗末なものかもしれませんが、わたしはとても気に入っています。これ以外の物を身に着ける気にはとてもなれないのです。あとは――そう」


 わたしは少し微笑んだ。


「時々、木の実のクッキーをいただいて、ダンスを踊ることができたなら、それでわたしはじゅうぶん幸せなのです。あなたがわたしのことを本当にかわいそうだと思ってくださっているのなら、どうかわたしをこのままにしておいていただけませんか。わたしはいずれ、森の花嫁となります。それがわたしの心からの望みなのです」


 見上げた青の瞳が揺らいだ気がした。


「ですが、あなたが命を落としてしまったら、それも叶いませんよ」


 声がいくらか優しくなった。


「あら、どうかしら。この身を捨てても、きっとダンスだけはいつまでも踊ることができますわ。だって、森もダンスを好きなんですもの」


 開け放っていた窓から風の渡る音がして、わたしは皇子の背後を見やった。森のざわめきはいつだってダンスを踊ってるようで、わたしの心を弾ませる。


 わたしの視線をたどるように皇子は暗い森を見やる。


「それなら、やはり――あなたはおかわいそうな方だ。うつくしい姫」

 森から視線を外して、皇子はわたしを見下ろす。


「だって、あなたはそれほど望んだ森の花嫁となることができずに、私の花嫁となるのだから」


 皇子はわたしの手を取る。


「どうせ、人身御供になるのなら、私の下に来るといい。死ぬよりはましでしょう。むろん、あなたが帝国に来てくださるのなら、私があなたとこの国を守りましょう。ですが、それでもあなたが森に身を捧げると言うのならば」

 わたしの手に唇を落とし、わたしを冷たい青の瞳で見る。

「偉大なる帝国の皇子たる私は皇帝陛下に迷信に支配された愚かな国だと進言し、兵を進めて、あなたを奪いましょう」


 皇子は自信に満ちた鮮やかな笑みを浮かべる。

「うつくしい、憐れな姫君。帝国に来られる日をお待ちしております」


 帝国に恭順することなく、兵が攻め込んでくることになれば、民は蹂躙され、国土は焼き尽くされるだろう。


 静かな小さなこの国は森ごと滅ぼされてしまう。


 わたしは窓辺に立って森を眺める。


 強い風がわたしの髪を乱していく。


 本当に、そんなことが起こるのだろうか。


 そんな冒涜をこの森が――許すだろうか。


 



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