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「少し嫌い」が「大嫌い」になった日。

作者: のーとぶっく。


あああもう本当に気持ち悪い気持ち悪いキモチワルイ!!!!


こちらに笑いかけてくる相手ににこりと可愛らしい笑みを返した彼女――――桜野沙耶は、心のなかでそう罵倒した。

相手はクラスメイトの女子。そこまで悪い顔立ちもしていないし、授業もちゃんと聞き、宿題も完璧に真面目なごく一般な生徒だが、沙耶はそいつのことが嫌いだった。否、数秒前に大嫌いになった。


沙耶が彼女のことを嫌った理由は主に3つだった。


まず一つ目は、無意識に自慢をしてくること。あのテストはどうだったーだの、この問題は私も解けるよだの、このアイドルへの愛は負けないだの。そんなことに興味のない沙耶にとっては、ただの雑音でしかない。それでも、クラス内に敵を作りたくない沙耶は適当に相槌を打ちながらも聞いてやっていた。

次に、人の会話に割り込んでくる。沙耶とは対極の席を陣取っているくせして、特段仲が良いわけでもない(むしろ沙耶は話したくない)はずの沙耶やその友達との会話に急に割り込んできては、文脈の分からない話題を持ち出してくる。せっかく親友と楽しく会話しているのに、意味の分からないことを一々言ってこないでほしい。

それに加えて、事あるごとに沙耶や他のクラスメイトに下の名前で呼んでよ!なんで呼んでくれないの?ねえどうして?的なことをいつもこちらへ言ってくる。そんなのお前と仲良くなりたくないからだ、それくらい分かれよ、何度言われても苗字呼びから変わらない理由ちっとは自分で考えろよ、と口に出したくなる。が、沙耶は面倒事はごめんだ、という理由で結局彼女にいうことはなかった。

しかし沙耶の中で彼女の存在が「あまり好きではない」から「大嫌い」になった理由。その極めつけは、少し前の出来事だ。


沙耶はそのとき、普通に席の近くの友人と気ままに談笑していた。なんということはない、日常的な会話である。今日は宿題の提出あったっけー、とか、小テストの勉強してないー、とかその程度の。

しかし。

そいつは、やってきた。



ふうー。



耳に生暖かい感覚。全身が一瞬で寒気に覆われた。

なんと驚くべきことに、急にやって来たその女は、果てしなく運の悪いことに、沙耶の耳に息なんぞを吹きかけやがったのである。

勿論、その急な動作に驚いた沙耶はびくりと大袈裟なほどに肩を震わせた。誰だよ急に私の耳に、と疑問と嫌気が浮かび上がり、そしてそいつの顔を見て、うわまさかこいつ?と思うと同時にぞわりと鳥肌と寒気と吐き気が沙耶を襲った。しかしそれもある意味当然のことだ。あまり好きではない、むしろ嫌いな奴にそんなことをされて耐えられる奴がいるだろうか、いないだろう?(反語)

クラス内に敵を作らないようにしているのが仇となったのだろうか、彼女は沙耶の驚いた(そのとき嫌悪感を顔に出さないように頑張っていた)顔を見て笑いながらこちらへと話しかけてきた。


「あっはは、驚いた?沙耶が熱心に話してたからさー、ついやっちゃったーw」


は?

と、そいつを見上げた沙耶は単純にそう思った。

沙耶、と下の名前で呼ばれるのは別に良い。沙耶としては、別に上の名前で呼ばれようが下の名前で呼ばれようが、ほとんど興味などないからだ。それに、クラスのほとんどが自分のことを沙耶と呼ぶので今更それをどうのこうの言うつもりはなかった。

しかし、しかしだ。

沙耶は身体に触れられるのが、あまり好きではない。少し敏感な性質で、どこを触られてもほとんどこそばゆく感じられてしまうからだ。それはクラスのほとんどが周知の事実で、彼女も知らないということはないくらいには有名な話だ。それに、もしその話を知らなかったのだとしても、急に耳に息を吹きかけられるのを嫌がる人がいるぐらい、少し考えれば誰でも分かることだろう。


沙耶だって、仲の良い友達くらいだったらそんなに嫌がることもなかった。「もー、私はそういうのに弱いんだから、次からはやめてよね!」くらいで終わったはずだ。

でも、相手はあまり好きではない女子だ。元々されるのも好きではないのに、どうして嫌がらずにいれようか。急速に全身が拒絶反応を起こすのを感じながらも、人に嫌われるのを極端に避ける沙耶は、その拒絶を精一杯に隠し曖昧に笑って誤魔化した。


「もう吃驚させないでよ、私耳に息吹きかけられるの苦手なんだからね~?」


そして冒頭部分に戻るわけである。

元々嫌いだったがためにすでにぞわぞわする鳥肌を懸命に押さえ込みながら笑顔を取り繕ったので、彼女に作り笑顔だとバレないか心配だったが、どうやら杞憂だったらしく。沙耶が内心でかなり乱暴な罵倒を繰り広げていることに全く気がついていない様子の彼女は、気持ちの悪い(少なくとも沙耶にはそう見えた)笑みを浮かべながら「そうなんだ~」とのんびり言った。

ああ、これでやっとあっちへ戻ってくれるかな、と半分安心しかけた沙耶はまた友人と談笑を再開しようとしたのだが――――完全に、油断していた。



ふうー。



「うひゃっ!?」


まさかもう一度耳に息を吹きかけられるとは思っていなかったため、思わず変な声が出た沙耶に向けて、先程からちょっかいをかけてきているクラスメイトがくすくすと笑う。

そいつの醜い笑みを見ていると、さらに鳥肌が立ち、吐き気、そして寒気が自身に襲いかかる。とてもではないが、耐え切れない。というかキモチワルイなんだこいつまじで殴りたいうざいうざいうざい!!!!

とにかくそいつがうざかった。本当に拒絶反応がやばかった。耳に嫌な感覚がこびりついて離れない。気持ち悪くて仕方がない。思わずその耳に手を当てて、感触を消そうと頑張っても、全く刃が立たなくて。

しかし沙耶はとにもかくにも人に嫌われることを何よりも恐れていたがために、やっぱり暴言を吐くことができずに、若干引き攣った笑顔でそいつに声をかけることしかできない。


「も、もおー、本当にやめてよねー!」

「あはは、本当に良い反応するからつい」


にへらと笑うそいつに苛立ちが募る。でも言えない。なぜなら自分は人に嫌われるような行動を取れないから。

しかしやっと沙耶の引き攣った笑みに気づいたのだろう、沙耶の親友は比較的控えめな声音で「あ、あの、もうやめたほうがいいって」と彼女に声をかける。ああ、さすが私の親友!もうとにかくアンタさっさとどっかへ行ってくれよ!そんな言葉を心のなかで思う存分に叫び、そして少なからず安堵した私は、しかし知らなかったのだ。

これから見る本当の地獄を。



ふうー。



唐突に反対側の耳に生温い感触と、そして吐息の音が間近にあった。急いで後ろに身体を退ける。ガタンッと机に身体が当たるがもう気にしてられなかった。それほどまでに嫌だったのだ。その耳に残る感覚が。

もうすでに吐き気や寒気等の拒絶反応が限界ギリギリに酷かった沙耶は、それを抑えるのも気持ち悪い、と思いながらも嫌な感触の残る右耳の近くにいる人物を見た。最近仲の良くなった友達が悪戯が成功したときの少年のような笑みでこちらをくすくす笑っていた。


「沙耶ちゃん、耳が弱いんだね」


――――嗚呼、もうだめだ。


何も聞いてくれない、そしてまだまだ沙耶の耳にちょっかいを売る気が満々な二人に、苛立ちや拒絶反応を通り越して涙が出てきそうになる。最悪だ、気持ち悪くてもう耐えられない、鳥肌やばい、うざいうざいうざい、おいお前らただ面白そうに見てないで助けてよ、もう嫌だ、キモチワルイキモチワルイキモチワルイ――――――――

限界を超えとうとう耐え切れなくなった沙耶は、もう既にありえないくらいに引き攣ってしまった作り笑いをしながらも、両耳を塞いでその場にうずくまるしかなかったのだった。


***


「ねえ優子、聞いてくれる……」

「ん、なに沙耶?」


ストレスが溜まりに溜まった沙耶が、クラス内に敵を作らない、というか作ることのできない自分のチキン度に耐えられなくなって親友に相談するのも、最早時間の問題であった。


めっちゃ実体験でした。描写もほとんど同じです。嫌いな人にされたら誰だって嫌になるっすよね。

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