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死ねない幼女と壊れた人々(2)

 郊外にある高級住宅街。半ばスラムと化している街を居丈高に見下ろすかのように山の中腹を削り取って存在するそこは、高い壁を持つ豪邸ばかりが建ち並び、一見すると刑務所群のようにも見えるのが滑稽だ。

 その中でも、ひと際大きく、壁にも豪奢な飾りが為されている屋敷があった。いかにも成金趣味、という感じで、隼人に言わせれば、悪趣味の一言で片付く。

 状況確認のために屋敷の周囲を一周。それだけでも結構な時間を要した。

「ふむ。なかなかに厳重な警備ではないか」

 監視カメラ。セントリーガン。壁の上にもおそらく電流が流されている。

「どうやって美羽の奴逃げてきたんだよ、コレから」

 街が街なだけあって、その警備態勢は頑丈過ぎと言われるほど整えても十分とは言えないのかもしれない。

 隼人自身、少し見くびっていたと感じてしまうほどの用意周到さ。死角はほぼゼロ。目につく監視カメラは全て観察したが、一つの監視カメラの隙を別の監視カメラで完全に埋めている。

「あいつ、実は空飛べるんだろうな。虚像人ってすげーな」

 真面目な話、美羽が空を飛んで逃げたと言ったほうがよほどしっくりくるほどの警備である。

 さて、どうするか、と正面ゲート付近に到着してみると、"お出迎え"が来ていた。

 スーツを着込んだ、初老の男。隼人の姿を確認すると、柔和そうな表情を更に緩め、一つお辞儀をする。

「ようこそいらっしゃいました、神無月様。私、執事の大西弘と申します。どうぞお見知りおきを。ささ、どうぞ」

「俺、美羽を奪いに来たんだけど入れていいわけ?」

「ええ。影久様の"遊び相手"になっていただければ」

 あくまでも、隼人は影久の家に遊びに来た友人である。そんな風を装え、といったニュアンスを含めた、大西の言葉。

 門をくぐると、二百メートルほど先に、巨大な屋敷が見えた。そこまでの移動は、当然のごとく車が用意されている。

「あ、俺歩くわ。いきなり車の中に閉じ込められて爆殺とか嫌だし」

「ご心配なさらなくても。貴方を殺したいと思ったら、何の躊躇もなく狙撃なりなんなりを行っておりますよ」

 確かに、と思いながらも、これも隼人を殺す方便なのかもしれない。隼人は軽く肩をすくめながら、屋敷のほうへと歩いていく。用心に越したことはない。

「なあ、美羽はどうやってこの警備から抜け出したんだ?」

「警備部隊の交代の隙を突いたのでしょう。詳しくは不明ですが、美羽様はよほどの幸運の持ち主のようです」

「……ふぅん?」

 大西の言葉にどこか隠し事をしているかのような色を感じ取るが、それが何なのかは言及しない。外に出れたというのは事実なのだから。

「で? 俺は影久ちゃんと何をして遊べばいいのかな?」

「剣術の稽古のお相手をしてほしい、と」

「え? 影久ちゃん、剣使えるの?」

「はい。この日本において剣術で勝てる方はいないと断言できる程度には」

 大西が、真面目な顔をして堂々とそんなことを言うものだから、隼人は思わず噴き出してしまった。しかし、そんな言葉が決して過剰評価ではないと想定して臨まないといけない。相手が大企業のおぼっちゃまだからと言って油断すると、確実に命取りだ。

 腿に取り付けたコンバットナイフが、ズシリ、と重みを増したような気がした。

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