古より未来へ
昔々のお話です。
ある所に二人の恋人がいました。
二人はお互いを心の底から愛しており、そう遠くない未来には婚姻を結び末永く共に生きていこうと誓い合った仲でした。 二人を知る全てが二人を祝福し、二人の幸せは確約されているものと世界自身ですら思っていました。
そう。 他の世界から侵略の為に来た魔物と、魔物に対抗しなければならない立場の人間ではありますが、二人は本当にお互いを愛していたのです。 そしてそんな二人を見て、世界と世界に在る全ての生き物は少しずつ手を取り合い始めていました。
二人の夢はとてもささやかな物でした。 どこかに自分達だけの家を持とう。 犬や猫を飼おう。 子供を授かったら、皆で楽しい家庭を築こう。 その程度の物でした。 二人は身の丈に合わない事は何一つ望んではおらず、お互いと優しい一生を過ごせればそれで良かったのです。
しかし、彼らの婚姻の儀の日にそれは起こりました。
世界が、いつの間にか入り込んでいたウィルスにより、自身のシステムから追い出されてしまったのです。
世界自身はただただ彷徨うしかできない「体無し」になってしまい、全ての生き物はウィルスの思い通りに動くおもちゃとなりました。 それを見たウィルスは己を神と呼ぶようになり、己の望むまま暴虐の限りを尽くしまじめました。 さらに悪い事に、ウィルスには子供が居りました。 それはウィルスよりさらに我侭で、全てが己の思いのままにならないと癇癪を起こすような子供でした。
そしてそれは、全てに愛され祝福されている二人に目をつけました。
この二人のどちらかを己の物にすれば、もう片方はどれだけ絶望するだろう。 どれだけ嘆き悲しみ、私を楽しませてくれるだろう。 それはそう思い、さっそく二人を引き裂くために動き始めました。
それは最初に男の方に擦り寄りました。 しかし男は魔物。 ここの世界システムの干渉は非常に受けにくい、外の生き物です。 どれだけ誘惑しても、己の親に泣きついても男は靡きません。 なので、それは女の方に擦り寄り始めました。 しかし、女は世界の寵児。 世界自身にしか扱えない部分で守られている彼女にも、ウィルスとその子供はあまり干渉できませんでした。
なので、それらは考えました。 どうやって二人で遊ぼうかと。 そして考え付きました。 自分達が飽きるまで、殺し合わせようと。 ちょうど、彼らにはアイディアがありました。 「勇者と魔王」という、宿敵同士のお話を聞いた事があるのです。 人間である女の魂は「勇者」に。 魔物である男の魂は「魔王」にし、二人の記憶を消して幾度も幾度も転生させ殺し合わせるのです。 そして死ぬ寸前、二人の全ての記憶を戻すのです。 致命傷を与えられた方はその瞬間に。 与えた方は、一生を全うしたその瞬間に。
この『喜劇』を考え終わった後、ウィルスの子は物語を始める役割を担うことにしました。 自分で動かしたほうが問題も少くなるし、なにより自分好みにする事が出来るからです。 さらには生き残った方に接触し自分を愛させ、さらなる絶望に突き落とす事も出来るからです。
そしてそれらはそのまま、その世界の全てで遊び始めました。 「体無し」は己の子達が虐げられているのを見続けることしか出来ず、世界の子達と魔物達はそれらのおもちゃと成り下がり、己で考える事すら出来なくなっていきました。
…その有様を見て、別の世界は思いました。
そんな世界は面白くない、と。
別の世界はピエロなので、全てを面白くしたい性質でした。 そして面白くない世界は、変えられるべきだと常に思っていました。
なのでピエロは己の子を二人、送り込むことにしました。 その面白くない世界を、とても面白くするために。 なぜならその者は道化師。 全てを笑わせるのがお仕事。 それは他の世界の生き物であっても、例外ではないのですから。
…同時にその有様を見ていた、さらに別の世界は怒りました。
そんな資格もないくせに、自分の子供たちを虐げるなど許せない、と。
その世界は己の子達を養えぬほど滅んではいましたが、それでも彼らを手助けする力ぐらいは残っていました。 なので、まずは道化師の子達の為に、道を開き。 そして最後の力で、己の分身を作り出し送り込みました。 そんな事をすれば消滅してしまうとその世界は分かってはいましたが、できる事がそれぐらいしかなかったのです。 ですが、その世界はそれと同時に分かっていました。 この行動だけで、ウィルスはとても不利になる事を。
そうして、そんなとこから、このお話は始まるのです。
このお話は、世界の全てが始まった時に始まった、全てを終わらせる物語です。
このお話の最後には、本当に全部終わってしまいます。 世界は続かず、キャラクター達も全員居なくなります。 他の小説の主人公である、千尋やエリオットも。
ただ、バッドエンドではありません。 文句なしのハッピーエンドです。 全員が幸せになり、全員が満足していきます。
幕は引かれ、客席に光が戻る。
そうして、それが終わり、それで終わり。