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春の悪霊

作者: 針棘 優繕
掲載日:2026/04/29

 スーッと抜ける優しい雪解けのにおいで目が覚めた。

 もうすぐ春が来るみたいだ。

 僕は覚えている。

 小さな公園に咲いている大きな桜の木を。

 耐え忍び、光を蓄え、その時を待っていた強く気高い桜の木。

 寒さに微睡む人々に春を告げるは花吹雪。

 君は忘れてしまったかな?


 夏になればまた会えるだろう。

 だって君は必ず会いに来てくれるから。

 君のことだ、きっと僕が眠る季節にも会いに来てくれてるんだろうな。

 ごめんね。

 でも、今年はどうやら神様がチャンスをくれたみたいだ。

 今度は僕が君に会いに行くよ。

 夏じゃなくて(いま)、君に会いたいから。

 今君とあの公園で大きな桜の木を見たいんだ。

 果たされなかった約束を今更だけど叶えたい。

 君はどう思うかな?


 そーっと穏やかに頬を撫でるそよ風に背中を押された。

 そうか春が来たんだ。

 私は覚えているよ。

 小さな公園に咲いている大きな桜の木でしょ?

 踏ん張って、英気を養い、その日を待っていた儚く勇敢な桜の木。

 寒さに震える人々に春を届けるは花盛り。

 貴方は忘れちゃったかな?


 夏になればきっと会えるんだと思う。

 だって貴方はいつも夏だけは私を待っていてくれるから。

 でもね、気付いている?実は夏だけじゃなくて、秋も、冬も、春も、貴方に会いに行っているんだよ?

 許さない。

 だからさ、今年の春は貴方が会いに来て?

 私、待ってるからさ。

 夏じゃなくて(いま)、貴方に会いたいから。

 今貴方とあの公園で大きな桜の木をみたいな。

 叶えてくれるかな?あの日の約束、私の我儘。

 貴方は何を思うのかな?


 二人の世界に春風が吹いた。


 いた、君だ。


 貴方の気配がする。


「そこにいるの?」


『ああ、会いに来たよ』


 本当に?夢じゃない?

 だって、まだ夏じゃない。


 まだ、夢の中なんじゃないか?

 だって、まだ夏じゃない。


 それでもいいかな。


 それでもいいじゃないか。


「待ってたよ」


『数年の大遅刻をしてしまったね』


 ホントだよ。

 私がどれほど…………苦しかったか、悲しかったか。

 でもね、そんなのもうどうでもいいや。

 これが、惚れた弱みってやつなのかな?


「許してあげる」


 不甲斐ない。

 僕がどれだけ…………傷つけたか、痛めつけたか。

 だから、僕は罰を受けるべきなんだ。

 なのに、君は許してくれるのかい?


『ごめん』


「謝らなくていいよ。それよりほら、見て」


『ああ、綺麗だ』


 僕らの前に、


 私たちの前に、


 あの日一緒に見ようと誓った桜の木がある。


 約束、果たせたかな?


 約束、叶えてくれたね。


「うん。きれい…………だ、ね」


『泣いてる?』


「え?」


 いつの間にか泣いていた。

 そのことに気づけば、気持ちが溢れ出してきて止まらない。

 ずっと一緒にいたかった。生きたかった。

 どうして私を置いていっちゃったの?

 やっぱり許してあげない。

 許して欲しいなら…………。


『ふふ』


「なん、で!わらうのぉー」


『ごめん。本当は謝らないといけないんだけど…………嬉しくて』


 きっとその涙は思いの塊なんだ。

 そう思ったら、嬉しくてつい気持ちが抑えられなかった。

 ずっと一緒にいたいな。生きたいな。

 どうして僕は先にいってしまったんだろう。

 やっぱり罰が欲しいな。

 とびっきりのやつが…………。


「可愛い彼女を、泣かして…………嬉しいとか。…………とんだ悪霊だ」


『確かに僕はわるーいお化けだね。ならどうする?』


「罰として、来年…………も、一緒にさ、桜を見ることっ」


『罰なら仕方ないね。何なら秋に紅葉、冬に雪景色もつけようか?』


「テキトウなことばっか言って!…………嘘だったら除霊師に祓ってもらうから」


『それは困るな。君に会えなくなる』


「じゃあ、今のやっぱなし」


「『……………………ぷ、あはは!』」


 ああおかし!

 ねぇ、私、今とっても幸せだよ。


 まったくへんだ!

 ああ、僕、今すごく幸せだ。


『好きだよ』


「私は大好きだよ?」


『なっ!僕だって』


「どうかなぁ?」


『ホントだって!』


「…………約束、忘れないでね」


『うん…………必ず』


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