第5話 この世界、席順がすべて
この世界で生きていく上で、
一番大事なこと。
――それは、
誰が偉いかじゃない。
(……どの席に座ってるか、よ)
私は、
王宮の中庭を歩きながら、
そんなことを考えていた。
◇
この国は、
王を頂点とした貴族社会。
爵位があり、
家格があり、
血筋がものを言う。
表向きは。
でも実際は、
もっと単純。
“今、誰の話を皆が聞いているか”
それだけ。
前世の店と、
びっくりするくらい似ている。
店にも、
いろんな席があった。
・常に人が集まる席
・静かだけど安心な席
・一度問題を起こして誰も寄らなくなった席
誰かが
「行くな」って言わなくても、
人はちゃんと避ける。
王宮も同じ。
誰かが失脚したから、
人が離れるんじゃない。
“危ない匂い”がした瞬間に、
自然と距離ができる。
(今回の記録も、
それを可視化しただけ)
成人の儀で起きたこと。
第二王子は、
感情で喋った。
レミアは、
立場を勘違いした。
私は――
何もしたようで、
ほとんど何もしていない。
ただ、
・事実をそのまま受け取った
・余計な感情を乗せなかった
・判断を“場”に委ねた
それだけ。
(夜職語録⑭
場が判断した結果は、
誰も逆らえない)
この世界では、
“正しさ”より
“扱いやすさ”が重視される。
怒鳴る人。
泣き喚く人。
被害者を演じる人。
そういう人は、
正しくても、
面倒。
面倒な人の周りには、
人は集まらない。
(前世で、
何度も見た)
だから私は、
最初から決めていた。
この王宮で生きるなら、
一番“面倒じゃない人”になる。
じゃあ、
何を目指しているのか。
王妃?
権力?
玉座?
……違う。
(正直、
そんな重たい席、
座りたくない)
私が欲しいのは、
もっと現実的。
・無理な指示が飛んでこない
・気分で振り回されない
・静かに生きられる場所
ただ、それだけ。
でもこの世界では、
それを手に入れるには――
ある程度、強い席に座る必要がある。
矛盾してるけど、
本当だ。
第一王子アレクシアは、
それを分かっている人だ。
彼は、
声を荒げない。
無駄に目立たない。
でも、
判断の席に座っている。
(同業者、ってやつ)
だから、
彼とは喧嘩したくない。
できれば、
同じ卓に座りたい。
第二王子は――
まだ分かっていない。
自分が
“偉い席”に座っていると
思い込んでいる。
でも実際は、
人が寄らなくなった時点で、
もう終わり。
(夜職語録⑮
肩書きがあっても、
席が空いたら意味がない)
私は、
中庭のベンチに腰掛け、
小さく息を吐いた。
さて。
世界の仕組みは、
だいたい把握した。
自分の立ち位置も、
悪くない。
じゃあ、次は?
――焦らない。
夜の世界でも、
一番強いのは
長く残る人だった。
騒がず、
壊さず、
でも確実に。
この王宮でも、
同じことをするだけ。
私は、
ゆっくり立ち上がった。
(大丈夫)
この世界、
思ってたより
ずっと分かりやすい。
席順さえ、
間違えなければ。




