第3話 余計な一言は、席を失う合図
ああ、危ない。
私は、
ほんの一瞬でそう判断した。
(この空気で、
まだ喋る人いる?)
成人の儀の大広間。
すでに場は、
第一王子アレクシアの言葉を待つ段階に入っている。
つまり今は
全員が「静かにして正解」を選ぶ時間。
夜の店で言えば、
シャンパンの栓が抜ける直前。
ここで割り込むと、
全部台無しになる。
……のに。
「……殿下」
その声を聞いた瞬間、
私は心の中で顔を覆った。
(あー……
今、それ言う?)
第二王子の隣に立つ少女、
レミア・カーミル・ローディス。
彼女は一歩前に出て、
にこやかに微笑んだ。
「お兄様にご判断を仰ぐ必要は、
ないのではありませんか?」
(あ、ダメだこの子)
完全に、
**“空気が自分中心だと思ってる人”**の声。
店でもたまにいる。
盛り上がってる卓に
突然割り込んで
「私の話聞いて♡」って言う子。
結果は――
誰も幸せにならない。
「だって」
レミアは、
自信満々に続ける。
「ユノス様は、
すでに婚約を破棄された方ですもの」
――来た。
(夜職語録③
“もう決まってますから”って言う人ほど、
何も決まってない)
空気が、
音を立てて冷えた。
さっきまであった
「とりあえず収めよう」という雰囲気が、
一気に消える。
これはもう、
事故じゃない。
自爆だ。
「……ローディス伯爵令嬢」
第一王子アレクシアの声が、
低く響いた。
怒っていない。
でも――
確認モードに入っている。
(あ、これ
“優しく詰める”やつ)
「今の発言は、
王家の判断を不要とする意見と
受け取ってよろしいかな?」
レミアは、
一瞬だけ目を瞬かせた。
(分かってない顔だ)
自分が
何を踏んだのか
理解していない。
「い、いえ……
そんなつもりでは……」
「では、訂正を」
逃げ道は、
ちゃんと用意されている。
ここで
「申し訳ありません」
って言えれば、
まだ助かった。
でも。
「ただ……
もう終わった話だと思いまして……」
(あー……
踏み直した)
私は、
心の中で静かに数えた。
――二回目。
夜の世界で、
二回空気を壊すと、
もう席は戻らない。
「フォビア公爵令嬢は、
殿下にふさわしくないと
判断されたのですよね?」
その瞬間。
完全に終わった。
貴族たちの視線が、
氷みたいに冷たくなる。
だって今の発言――
・王家の判断を代弁
・しかも“確定事項”として
・公の場で断言
全部、
やっちゃいけないやつ。
(夜職語録④
立場がない人ほど、
“代表者のつもり”で喋る)
第一王子は、
少しだけ息を吐いた。
「理解した」
声を荒げる必要すらない。
「ローディス伯爵令嬢。
君は今、
王家の裁定に先んじて
結論を口にした」
淡々と、
事実だけ。
「それは、
王家の権威を軽んじる発言だ」
ざわっ、と
今度は完全に
引く方向のざわめき。
第二王子が、
慌てて口を開こうとする。
「ち、違う!
レミアは・・・」
「カイル」
一言。
それだけで、
彼の声は止まった。
(夜職語録⑤
止められるってことは、
もう信用がないってこと)
私は、
最後まで何も言わなかった。
喋らない。
勝ってる時は、
喋らないのが正解。
レミアは、
助けを求めるように
周囲を見る。
でも。
誰とも、
目が合わない。
席が、消えた。
第一王子が、
静かに宣言する。
「本日の件は、
すべて記録に残す」
その一言で、
レミアの顔から血の気が引いた。
記録。
それは、
夜の世界で言うなら
ブラックリスト。
(……うん)
私は、内心で小さくうなずいた。
余計な一言は、
誰も守ってくれない。
むしろ――
その人が何者かを、
一番正確に暴く。
それが、
今日の教訓。
そして私は思う。
(これで終わり?)
いいえ。
まだ、入口。
王国攻略は、
ここからが本番だから。




