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「ご指名ありがとうございます」婚約破棄から始まる悪役令嬢の王国攻略  作者: 小鳥遊夜乃


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21/24

嫉妬は正義を纏う

王宮で最も厄介なのは、

 敵意ではない。


 ――正義の顔をした善意だ。


 ◇


 最初は、小さな違和感だった。


 侍女の視線が、

 ほんの少し冷たい。


 文官の言葉が、

 わずかに形式的。


 誰も無礼ではない。


 だが、

 温度が一段下がっている。


 ◇


 原因は、分かっている。


 第一王子の隣。


 その席が、

 “本物”だと察された。


 触れられない距離は、

 想像を生む。


 想像は、

 感情を生む。


 そして――

 感情は、必ず正義を探す。


 ◇


「フォビア公爵令嬢」


 柔らかい声。


 振り向くと、

 侯爵家の令嬢、

 アリシア・ベルナールが立っていた。


 年は近い。

 社交界でも評判の高い令嬢。


 表情は、

 完璧に整っている。


「少しだけ、

 お時間をいただけますか?」


 断れない丁寧さ。


 ◇


 場所は、

 人目のある談話室。


 ――安全な場所。


 つまり、

 表向きの話。


「殿下の隣」


 彼女は、

 単刀直入だった。


「最近、

 目立ちすぎではありませんか?」


 責めていない。


 心配している顔。


 ◇


「王宮は、

 多くの家の期待で

 成り立っています」


「特定の方に、

 殿下のお時間が偏るのは」


 一拍。


「公平ではない、と

 感じる者もおります」


 ――正論。


 だから、厄介。


 ◇


 私は、

 少しだけ微笑む。


「殿下のお時間は、

 殿下のものです」


「ですが、

 象徴でもあります」


 彼女は即座に返す。


 目は揺れない。


 これは、

 嫉妬だけではない。


 家の期待。


 社交界の圧力。


 自分の未来。


 全部が混ざっている。


 ◇


「私が、

 退くべきだと?」


 私は問う。


「その方が、

 波は立ちません」


 優しい声。


 でも、

 確実に削りに来ている。


 ◇


 沈黙。


 周囲の令嬢たちが、

 聞いている。


 視線が、

 空気を固める。


 私は、

 静かに言った。


「退く理由が、

 ございません」


 ざわり、と

 空気が揺れる。


 ◇


「殿下は、

 私をご指名くださいました」


 はっきり言う。


 ざわめきが増す。


「役割として」


 一拍。


「そして、

 意思として」


 視線が、

 さらに集まる。


 ◇


 アリシアの笑みが、

 わずかに硬くなる。


「それは……

 個人的な関係、ということでしょうか」


 罠。


 私は、

 逃げない。


「個人的であり、

 公的でもあります」


 曖昧にせず、

 断言する。


 ◇


「ですが」


 私は続ける。


「公平性を問うのであれば」


 一歩、

 前に出る。


「殿下に直接

 お尋ねください」


 静まり返る。


 ◇


 逃げ道を、

 相手に渡さない。


 “陰で言う”を、

 許さない。


 ◇


「……強いのですね」


 アリシアは、

 小さく息を吐いた。


「いいえ」


 私は首を振る。


「隣に立つと決めただけです」


 それだけ。


 ◇


 その夜。


 第一王子のもとに、

 数件の“相談”が入った。


 「社交界の均衡」

 「他家への配慮」


 言葉は柔らかい。


 だが、

 意図は明確。


 ◇


 アレクシアは、

 一つだけ答えた。


「配慮はする」


 一拍。


「だが、

 席は動かさない」


 短い。


 明確。


 ◇


 その返答が、

 翌日には広がった。


 もう誰も、

 “偶然の距離”とは言わない。


 ――選ばれた距離。


 ◇


(夜職語録㉗

 嫉妬は、

 価値の証明)


 私は、

 深く息を吐く。


 痛くないわけではない。


 でも。


 隣は、

 まだ空いていない。


 そして――

 私は、

 退かない。


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