第2話 何を言っているんだ!
「・・・何を言っているんだ!」
声を荒げた瞬間で、分かった。
(あ、これ“負け始めた男の声”だ)
王宮の大広間。
私――ユノス・メルク・フォビアが
「ご指名いただけますか」
と言った、その直後。
第二王子カイルは、完全に感情で殴りにきていた。
「お前は婚約を破棄された側だぞ!」
「それを兄上に向かって、そんな……ふざけたことを言う立場か!」
(はい、アウト)
前世の店なら、
この時点で“場を壊した客”として
一回、席を外してもらう。
でもここは王宮。
止める黒服はいない。
だから、自爆が止まらない。
(声を張った時点で、
“自分の正しさ”を証明できてないって自白してるのよね)
私は何も言わず、
ただ、静かに立っていた。
夜の世界で学んだことがある。
感情的な人は、
相手が黙ると、
自分の声で自分を追い詰める。
「……カイル」
低く、落ち着いた声が入った。
第一王子アレクシア。
(ほら、
“空気を戻す人”が出てきた)
「今は、彼女が発言している」
それだけ。
なのに、
カイルの勢いが一気に落ちる。
(効くわね。
“注意”じゃなくて
“事実確認”だから)
私は、そこで初めて口を開いた。
「殿下」
声は、落ち着いて。
トーンは、少し低め。
――店で言うなら、
“本音を聞きたい時の声”。
「その婚約を破棄なさったのは、
カイル殿下ご自身ですわ」
ざわっと、空気が動く。
(事実を、
感情抜きで出されるの、
一番嫌なのよね)
「ですから今の私は、
誰の婚約者でもありません」
一拍、置く。
間は、
相手に考えさせるためのもの。
「フォビア公爵家の令嬢として、
ここに立っています」
カイルの顔が赤くなる。
「屁理屈だ!」
(出た。
論理が切れた人の最終兵器)
でも、もう遅い。
周りの視線は、
完全に“ああ、そっちね”になっている。
私は、心の中で一つだけメモする。
(※夜職語録①
声が大きくなったら、
その人はもう負けてる)
「カイル」
再び、アレクシアの声。
「君は今、
公の場で
自分で破棄した婚約を持ち出し、
相手の発言権を否定しようとしている」
淡々。
完璧なカウンター。
(うん、
この人も“場を読む側”)
私は、もう何も言わない。
ここから先は、
喋らない方が、
価値が上がる時間。
アレクシアの視線が、私に向く。
「……ユノス」
名前を呼ばれる。
私は、ゆっくりとうなずいた。
「先ほどの言葉だが、
意図を聞かせてほしい」
私は、はっきり答えた。
「はい」
余計な修飾は、いらない。
「私は、
誰かを困らせるために
申し上げたのではありません」
一拍。
「ただ、
今後の立場について、
判断を仰いだだけです」
(夜職語録②
“選んでください”じゃなくて
“どうします?”って聞くのが正解)
大広間が静まり返る。
あ、これ。
完全に、
空気、取った。
カイルだけが、
まだ気づいていない。
もう、自分の席がないことに。




