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「ご指名ありがとうございます」婚約破棄から始まる悪役令嬢の王国攻略  作者: 小鳥遊夜乃


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17/23

第17話 同じ席に、触れない距離で

エスメラルダ商会の名は、

 まだ出ていない。


 それでも私は、

 金が来る直前の空気を

 はっきりと感じていた。


 夜の世界でも、

 同じだった。


 店が一段上に行く前、

 必ず“静かな時間”がある。


 ◇


 呼び出されたのは、

 王宮の庭園だった。


 業務用でも、

 公式でもない。


 夕暮れ時。

 風が、少しだけ冷たい。


 ――誰にも聞かせない話をする場所。


 ◇


「……やっぱり、

 ここを選ぶと思った」


 私が言うと、

 アレクシアは

 わずかに苦笑した。


「君には、

 もう読まれているな」


「殿下の選ぶ“席”は、

 分かりやすいです」


 それは、

 褒め言葉だった。


 ◇


 二人で歩く。

 並んでいるが、

 触れない距離。


 この距離が、

 今の最適解だと

 どちらも分かっている。


「……最近、

 眠れているか」


 唐突な問い。


 王子としての

 質問じゃない。


 私は、

 少しだけ驚いてから答える。


「ええ。

 不思議と」


「それは、

 良かった」


 短い返事。

 でも、

 本心だ。


 ◇


「怖くはないか」


 彼が、

 もう一度聞く。


 前より、

 少しだけ低い声。


「王宮も、

 貴族も、

 ……俺も」


 最後だけ、

 一拍置く。


 ◇


 私は立ち止まる。


 彼も、

 足を止めた。


「怖いですよ」


 正直に言う。


「でも」


 一歩だけ、

 距離を詰める。


 触れない。

 けれど、

 近い。


「殿下が

 隣に立つと決めてからは、

 怖さの種類が変わりました」


 彼の目が、

 わずかに揺れる。


「……どう変わった?」


「守られる怖さ、です」


 期待してしまう怖さ。

 失いたくないと思う怖さ。


 言葉にはしない。

 でも、

 伝わる。


 ◇


 アレクシアは、

 何も言わなかった。


 ただ、

 少しだけ

 こちらに体を向ける。


 距離が、

 さらに縮まる。


「それでも?」


 彼は聞く。


「……はい」


 即答だった。


 ◇


「金が来た時」


 彼は、

 静かに言う。


「俺は、

 王子として動く」


「分かっています」


「だが」


 一拍。


「その前と後は、

 一人の人間として、

 君の隣にいる」


 それは、

 告白ではない。


 でも――

 逃げ道を塞ぐ言葉だった。


 ◇


 私は、

 ほんの少しだけ笑った。


 夜の仕事で

 “落ちた客”に

 向ける笑みとは違う。


「……重いですね」


「分かっている」


「嫌いじゃありません」


 それだけで、

 彼の表情が

 やわらぐ。


 ◇


「では」


 私が言う。


「その時は」


 一拍。


「ご指名ください」


 仕事の言葉。

 でも、

 今は――

 少しだけ違う意味を持つ。


 アレクシアは、

 はっきりと頷いた。


「必ず」


 ◇


 その夜。


 エスメラルダ商会が

 人を探している、

 という噂が流れ始めた。


 王宮と市場、

 両方が動く前兆。


 私は、

 確信する。


 順番は、

 間違っていない。


 そしてもう一つ。


 この王国で、

 一番危険な席は――

 彼の隣だということを。


 それでも。


 私は、

 そこに座ると

 決めていた。


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