第14話 正式なご指名
それは、
予想よりも
ずっと静かに届いた。
封蝋は簡素。
文面も短い。
だが、
差出人の名だけで
十分だった。
――ヴェラルーカ家。
文は、
依頼でも命令でもない。
「王国研究機関《ハルジオンの室》にて、
非公開の検討会を行います。
同席をご検討ください」
検討。
同席。
どちらも、
“指示される側”に
使う言葉じゃない。
(……来た)
これは、
正式なご指名だ。
場所は、
研究機関の奥。
観測室と会議室の
中間のような空間。
机は円形。
資料は伏せられている。
――話す前提で、
もう準備が整っている。
中央に立っていたのは、
メラルーカ・レイビス・ヴェラルーカ。
赤黒い長髪に白衣、
つり上がった眼鏡越しの視線が、
感情より先に理屈を測ってくる。
評議会の時と
同じ表情。
だが、
目の温度が違う。
「来てくれてありがとう、ユノス」
名で呼ぶ。
立場を
一段上げた呼び方。
「今日は、
答えを求める場じゃないわ」
彼女は、
そう前置きした。
「“考え方”を
共有したいだけ」
私は、
席に着く。
一段下でも、
補佐席でもない。
同じ円の内側。
「近頃、
王宮の人事が
安定している」
メラルーカが言う。
「なのに、
予測値だけが
ずれている」
私は、
頷かない。
頷く必要がない。
「理由は?」
彼女は、
私を見る。
これは、
試験じゃない。
確認だ。
「……決定が、
一箇所で
完結していないからです」
私は、
静かに答える。
「誰かが命令し、
誰かが従う」
その構図が、
崩れている。
「代わりに」
一拍。
「選択肢が、
先に置かれている」
メラルーカは、
小さく息を吐いた。
「やはり」
肯定。
「あなたは、
“原因”を
人に見ている」
「はい」
「制度ではなく?」
「制度は、
人が動かさなければ
意味がありません」
事実だけ。
彼女は、
笑った。
「……夜の世界の
人間ね」
否定はしない。
「聞かせて」
メラルーカは、
真っ直ぐに言う。
「この国を、
どう“動かさない”つもり?」
――いい質問。
私は、
少しだけ考えてから答える。
「柱は、
動かしません」
「四大貴族?」
「はい」
「では?」
「柱の間に、
余白を作ります」
沈黙。
だが、
理解の沈黙だ。
「余白に、
選択肢を置く」
「選ぶのは?」
「各自です」
責任は、
押しつけない。
それが、
一番長く続く。
メラルーカは、
しばらく何も言わなかった。
やがて、
はっきりと言う。
「……あなたを、
研究対象として
呼んだつもりだった」
一拍。
「でも違うわね」
彼女は、
こちらを見る。
「共同検討者として、
正式にご指名したい」
これが、
本題。
私は、
すぐには答えない。
夜の世界では、
即答は安売りだ。
「条件は?」
私が聞く。
「自由」
即答。
「記録は残す。
決定は、
あなたに委ねる」
重い。
だが、
誠実だ。
私は、
静かに頷く。
「承知しました」
そして、
一拍置いてから言う。
「――ご指名、
ありがとうございます」
温度は低く。
礼は、
それだけ。
メラルーカは、満足そうに笑った。
「やはり、
高くつく」
「当然です」
席は、
並んだ。
これで、王国攻略は理屈の領域に入る。
剣も、
魔法も、
まだ要らない。
次に動くのは、
必ず――
金だ。
私は、席を立つ。
準備は、整った。




