第12話 四つの柱と、五つ目の席
四大貴族が集まる評議会は、
何かを決めるための場ではない。
何を決めなくていいかを、確認する場だ。
円卓の間。
王族の席は空いている。
代わりに、四つの椅子が等間隔に置かれている。
フォビア。
ハートガード。
ヴェラルーカ。
エスメラルダ。
――王国を支える、四本の柱。
そして今日は、
その円の内側に、
もう一つ席が用意されていた。
最初に口を開いたのは、
フォビア家当主――
アルト・メルク・フォビア。
私の父だ。
王国一の魔法学校校長。
王国の魔導教育を
実質的に支配している人物。
だが、
その肩書きを
自分から語ることはない。
「魔法学校は、例年通り」
簡潔。
感情を挟まない。
「魔導師団への供給も、
問題はない」
それだけで、
場は理解する。
――魔法分野は、
完全に掌握されている。
父は、
ちらりとも私を見ない。
それが、
一族としての距離感だった。
「騎士学園も同様だ」
ハートガード家当主、
バイス・ラス・ハートガードが続く。
王国最強の騎士 。王国一の騎士学園校長。
「規律に乱れはない」
短いが、
その言葉には
重みがある。
剣は、
抜く必要がない。
つまり――
国は、まだ静かだ。
「研究機関も、
大きな問題はありません」
ヴェラルーカ家当主、
メラルーカ・レイビス・ヴェラルーカ。
王国最高の頭脳。
彼女は、
淡々と報告しながら、
一枚の資料を指でなぞる。
「……ただし」
全員が、
その一言に反応する。
「人の配置に関する
予測値に、
わずかなズレが出ています」
原因は言わない。
数字も出さない。
だが、
それで十分だった。
「商会は?」
ハートガードが問う。
「順調だよ」
エスメラルダ家当主、
ディラン・アピス・エスメラルダが
軽く笑う。
「物流も、資金も」
一拍。
「……少し、
人の動きが早いくらいで」
全員が理解する。
――金は、
もう次を見ている。
この近況報告は、
情報共有ではない。
牽制と観測だ。
魔法は足りているか。
剣は動くか。
理屈は追いつくか。
金は回るか。
そして――
どこに“動かせる席”があるか。
その時。
メラルーカが、
初めてはっきりと
私を見た。
「……フォビア嬢」
呼ばれる。
私は、
静かに顔を上げる。
「あなたは、
この場をどう見ていますか?」
唐突。
だが、
無作法ではない。
探りだ。
私は、
少し考えてから答える。
「柱は、
まだ揃っています」
それだけ。
余計な評価はしない。
「でも」
一拍置く。
「揺れ始めた時に、
どこが先に動くかは、
まだ分かりません」
沈黙。
そして――
メラルーカが、
小さく笑った。
「……いい答えね」
評価だ。
評議会は、
それで終わった。
決議なし。
命令なし。
だが、
全員が確認した。
――柱は健在。
だが、
次に動く時の
“中心”は変わりつつある。
退出時。
廊下で、
メラルーカが
私の歩調に合わせてきた。
「あなた、
面白いわね」
「光栄です」
「感情で動いていないのに、
結果が必ず出る」
彼女は、
こちらを見る。
「研究対象として、
とても興味深い」
私は、
少しだけ首を傾げた。
「それは……
ご指名、でしょうか?」
メラルーカは、
一瞬だけ目を細める。
そして、
楽しそうに言った。
「ええ。そう受け取っていいわよ」
私は、
微笑まない。
ただ、
いつもの温度で返す。
「では――」
一拍。
「その時は、是非ご指名いただけると幸いです。」
メラルーカは、
満足そうに頷いた。
「その時は、
正式にお願いするわ」
席は、
もう決まっている。
誰が座るかを、
選ぶ段階に
入っただけだ。




