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④婚約そして大きな間違い


 お互いに愛を確かめ合った私たちは、晴れて婚約するために――

 AIが窓口を務める”婚約事務手続き所”にやってきた。


 ここでは婚約の申請や解消の手続きを行う事が出来る。


 AI側も”詐欺”のリスクなどを考慮すると、婚約に関する手続きはリモートでは行えないようで、

 「二人そろって来所していること」が条件。画面越しの同意ではなく、物理的な“ペア”として認識されないと始まらないため、コスモと二人でここへとやってきた。


 今の時代にはひとつ、結婚にあたってものすごく面倒くさい制度がある。


 婚約制度だ。


 なぜこんな制度が出来たかというと――

 少し前までは、結婚も離婚も、役所の窓口に紙を出して、人間の担当者が処理していた。


 それがここ数年で、全部AIに置き換わった。


 アプリから申請、ボタン一つで即時処理。

 結婚も離婚も、タップ一回で完了――という、ある意味“夢の時代”が来た結果、どうなったか。


 離婚が、爆増した。


 ケンカの流れでそのまま離婚ボタンを押してしまう人。

 酔った勢いで結婚申請をして、翌朝シラフになってから慌てて離婚する人。

 それ以外にも、その「簡単さ」を悪用した犯罪や、詐欺に使われたケースも出てきた。


 そういうケースが社会問題レベルで増えすぎて、とうとう政府が重い腰を上げたのだ。


 そして導入されたのが、この“婚約制度”。


 まず、“いきなり結婚”は禁止。

 必ず先に“婚約”が必要になった。


 婚約が受理されると、そこから最低半年は「婚約期間」として凍結される。


 そのあいだ、AIは二人の行動ログやら、位置情報やら、メッセージの頻度やら、謎の感情スコアやら――

 とにかくありとあらゆるデータを裏でこっそり集めて、分析する。


 そして、一定期間が経ったところで、AIがこう判定するのだ。


『この二人なら、まあ結婚しても大丈夫そうです』

『いや、ちょっと危なそうなので推奨しません』


 そのAIの「お墨付き」なしには、正式な結婚に進めない。


 もちろん、その婚約申請そのものも、決して簡単ではない。

 だから私たちは、最初の申し込みから諸々の入力管理まで、それぞれのパーソナルAIに手続きを代行してもらうことにした。


「細かいところは、全部やっといて。間違えないでね?」


 ――と軽い気持ちで任せた、その一言が。


 この先、私たちの人生をひっくり返す“大きな落とし穴”につながっているなんて、そのときの私たちは、まだ何も知らなかったのだ。



 婚約してから半年が経ったころ。

 そろそろ結婚できるかな、といつものように判定用アプリの画面をのぞき込んだときだった。


(……あれ? なんかおかしいぞ)


 違和感に、ふと目が止まる。


 今の制度では、ジェンダー差別がどうこうで、「夫」「妻」という呼び方は公式にはもう使われていない。

 書類の上では、昔の夫は“世帯代表者A”、妻は“世帯代表者Ⅰ”と記載される。


 ――建前上は、そうなっている。


 けれど、実際のところ、その呼び方は社会にほとんど浸透していない。

 だからデータの確認画面では、ラベルの横に、結局こうやって昔ながらの「夫」「妻」が、しれっと併記されているのだ。


 その「しれっと」を含めて、我が家の婚姻データは、こう表示されていた。


 世帯代表者A[夫]:セレス

 世帯代表者I[妻]:コスモ


(…………逆じゃない?)


 何度見直しても、「セレス:夫」「コスモ:妻」。

 リロードしても、端末を軽く叩いてみても、表示は変わらない。

 どう読んでも“逆”の登録になってしまっていた。


「ねえコスモ、ちょっとこれ見て」


「ん? ……あー……」


 隣からのぞき込んだコスモが、気の抜けた声を漏らす。


「……あのさ。僕、いつの間に“女性”になったの?」


「あなたは昔からその”気”があったでしょ。それより何で、私が夫になってるのよ。」


 後で調べたところ、その原因はわりとはっきりしていた。


 AIは、私たち本人の自己申告データよりも、サーバー上にあふれる膨大なコスプレ写真やタグ情報――

「男装セレス」「女装コスモ」として蓄積された履歴や、

 男勝りな私のプライベートの行動ログ。

 それに、さすがにもう女装はやめたものの、少女マンガ家としての彼の職業や資料用と称して女物の服を自分用サイズで買いあさっている購買履歴――。


 そういったものをまとめて、“より信頼できる証拠”と判断して、私たちの性別を確定させてしまったらしい。


 結果。


 婚約データ上の性別は、見事に、きれいに――左右反転した状態で登録されてしまっていた。


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