第9話:神の火加減、最強の目玉焼き
俺の鑑定スキルが、かつてない精度で周囲の「鮮度」を拾い上げる。
狙うターゲットは、そこら辺にある鶏の卵じゃない。
「カイル様! 宝物庫にある『不死鳥の卵』を持ってきてください! 陛下、王宮で一番デカい盾を貸せ!」
混乱の中、差し出されたのは伝説の魔獣の卵と、英雄が使ったという純銀の円卓盾。
俺はそれをフライパン代わりに、ドラゴンの鼻先に突き出した。
「龍王陛下! あんたのブレス……火力の『賞味期限』はあと何秒だ?」
『フン、我を誰だと思っている。我が焔は永遠よ!』
「なら、三秒だけ……極低温の火を、この盾の裏に吐け!」
龍が鼻を鳴らし、青白い炎を吹き付ける。
その瞬間、俺は盾の上に『フェニックスの卵』を割り落とした。
ジュワァァァッ……!!
広間に、これまで嗅いだこともないような、芳醇で暴力的なまでに美味そうな香りが爆発した。
俺は鑑定スキルを全開にする。
『【白身の凝固率】85%……いま!』
『【黄身の濃厚度】賞味期限:あと2秒で最高潮!』
俺は仕上げに、リナからひったくった「定食屋の醤油」をひと回しした。
立ち上る焦がし醤油の香りが、龍の理性を粉砕する。
「さあ食え! これが、この世界で一番贅沢な『普通の目玉焼き』だ!」
龍は巨大な舌を器用に使い、盾の上の目玉焼きを丸呑みにした。
『………………ッ!!?』
龍の巨体がビクンと跳ねる。
その黄金の瞳が潤み、全身の鱗がさらに輝きを増した。
『な、なんだこれは……。表面はカリッとしているのに、中は太陽のように濃厚で、この黒い液体(醤油)がすべてを一つにまとめている……。我、五千年生きてきたが、これほど「鮮烈」な味は初めてだ……!』
『【古代龍の満足度】賞味期限:1万年』
龍は満足げに鼻息を吐くと、小さく身を震わせ、人間の子供のような姿に変化した。
「小僧。気に入った。今日からお前は、我が『専属の給仕係』に任命する。……断るなら、この国を炭火焼きにするが?」
「……陛下、女帝様。誰か、俺の『平穏な人生の賞味期限』を延ばしてくれませんかね?」
俺の問いに答える者は誰もいなかった。
ただ、リナだけが「しょうがないわね、醤油の代金はツケとくわよ」と呆れたように笑っていた。




