第7話:料理人は国境を越える(物理的に)
「い、今なんとおっしゃいましたかな、エカテリーナ女帝……?」
エドワード国王が、震える声で聞き返した。
女帝エカテリーナは、頬を赤らめたまま、とろけるような視線を俺――ではなく、空になったアイスの皿に向けている。
「聞こえませんでしたの? このサトウを、我が帝国の『聖刻料理人』として迎え入れたいと言ったのですわ。引き換えに、北方の炭鉱権を譲渡してもよろしくてよ」
謁見の間が、本日一番のざわめきに包まれた。
炭鉱権。それは一国の経済を左右するほどの莫大な利権だ。
(……おいおい。俺の価値、いつの間にか山一つ分になったのかよ!?)
「い、いくらなんでもそれは……。サトウ殿は我が国の『聖食守護職』。我が国の宝を、そう簡単に手放すわけにはいかんなぁ!」
国王陛下が必死に食い下がる。が、その目は「炭鉱権か、サトウか……」と一瞬揺れていたのを俺は見逃さなかった。この王様、あとで一発ぶん殴ろう。
だが、そこで割って入ったのは、沈黙を守っていた聖騎士カイルだった。
「お言葉ですが、女帝陛下! サトウ殿は私の……いや、我が騎士団の胃袋を支える重要な守護者です。帝国への譲渡など、断固反対いたします!」
カイル様が剣の柄を握る。一触即発の空気。
その時、俺の【賞味期限鑑定】が、広間の入り口付近で**「とてつもない数値」**を弾き出した。
『【静かな怒り】賞味期限:なし(現在進行形で爆発中)』
『【破壊力】計測不能』
扉がバタン! と勢いよく開く。
そこに立っていたのは、王宮のメイド服を(なぜか)着せられた、定食屋の看板娘リナだった。
「ちょっとサトウさん! 王宮で何してるのかと思えば、女帝様にプロポーズされてるってどういうこと!?」
「リ、リナちゃん!? なんでここに……」
「カイル様に『サトウが王宮の悪い狐に騙されそうだから助けてくれ』って呼ばれたのよ! ほら、帰るわよ。今日の夕飯の仕込み、手伝ってもらうんだから!」
リナが俺の腕を力強く掴む。
女帝の目が、冷たく細められた。
「あら。その小娘が、サトウの『所有権』を主張するのですか?」
「所有権とかじゃないわよ! サトウさんは、うちの店の……私の、大事なコックなんだから!」
『【リナの独占欲】賞味期限:100年(発酵により強化中)』
俺を中央に、右から女帝、左からリナ、そして後ろから「行かせんぞ」とカイル様が引っ張る。
四方向から引っ張られる俺の鑑定結果が、虚しく点滅した。
『【サトウの精神状態】賞味期限:あと3秒で終了』
「……あー、もう! 皆さん、落ち着いてください! 料理で解決しましょう、料理で!」
俺の叫びが、広間に響き渡った。




