第6話:鉄の女帝と、溶けないアイス
王宮の謁見の間。そこは、冬が戻ってきたかのような冷気に包まれていた。
目の前に座っているのは、北方の大国・グラキエス帝国の皇帝、エカテリーナ。
「鉄の女帝」の異名を持つ彼女は、扇子で口元を隠しながら、氷のような視線をこちらに向けている。
(……この人、周りに冷気を纏ってるのか? 物理的に寒いぞ)
俺は「聖食守護職」の仰々しい制服に身を包み、彼女の頭上に浮かぶ数字を盗み見た。
『【エカテリーナ女帝の機嫌】賞味期限:マイナス300日(極寒状態)』
『【交渉決裂までの時間】残り:15分』
……早い。早すぎる。
挨拶が終わった瞬間に戦争が始まりそうな勢いだ。
「エドワード王。わざわざ呼びつけておいて、この程度の退屈なもてなしですか。……我が国の吹雪の方が、まだ愛嬌がありますわ」
女帝の冷たい声に、陛下が顔を引きつらせて俺に合図を送る。
(サトウ、早くしろ! あの女、帰る気だぞ!)
俺は深呼吸をして、あらかじめ用意していた「一品」を彼女の前に置いた。
「女帝陛下。極寒の地からお越しの貴女にこそ、召し上がっていただきたい『太陽』がございます」
「太陽……? ふん、ただの白い塊ではありませんか」
彼女の前に置いたのは、真っ白でふわふわした「雪」のようなデザート。
鑑定スキルを駆使して、**【鮮度がピークの瞬間に凍らせた牛乳】と、【糖度の賞味期限が極限まで高まった南国の果実】**を合わせた特製のアイスだ。
「一口召し上がれば、その『凍りついた心』の賞味期限が書き換わりますよ」
「不届きな口を……」
女帝が不機嫌そうにスプーンを運び、一口含んだ。
その瞬間。
『【エカテリーナ女帝の機嫌】賞味期限:マイナス300日 ――→ +5分(解凍開始)』
彼女の眉間のしわが、ほんの少しだけ緩んだ。
だが、鉄の女は甘くない。
「……冷たいものは、食べ飽きています。我が国では一年中、雪を食べているようなものですから。この程度で私の心を動かせると?」
「いえ。このお菓子の真骨頂は、ここからです」
俺は魔法石の火を、そっと皿の下に近づけた。
普通ならアイスはドロドロに溶けるはずだ。しかし、鑑定スキルで「溶けるまでの限界時間」を操作したこのアイスは、熱を浴びることで外側のコーティングだけがパリパリと音を立てて弾け、中から**【超高温の完熟マンゴーソース】**が溢れ出した。
冷たい雪の中から、燃えるような太陽の熱。
その温度差の衝撃に、女帝の瞳が大きく見開かれた。
『【エカテリーナ女帝の機嫌】賞味期限:+100日(爆上がり)』
「……熱いのに、冷たい。……厳しい冬の後に来る、あの春の息吹のような味……」
女帝は扇子を落とし、うっとりと頬を染めた。
鉄の女帝の顔が、恋する乙女のように「解凍」されていく。
「エドワード王……。この料理人ごと、我が国へ嫁に来て(・)くださるなら、不戦条約を結んでもよくてよ?」
「……はい?」
陛下とカイル様、そして俺の叫びが同時に響き渡った。




