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第5話:不本意な昇進と、伝説の始まり

王妃が「爆発音」と共に戦線を離脱してから数時間。

 王宮の広間には、重苦しい、けれどどこか滑稽な空気が流れていた。

 速報:王妃、トイレに籠城。

 そして――彼女が陛下に捧げようとした紅茶の残りカスから、暗殺用の猛毒が検出された。

「……サトウ殿。君がいなければ、私は今頃冷たくなっていた。いや、その前に『恥』で死んでいたかもしれんが」

 エドワード国王陛下が、涙が出るほど笑った後の顔で俺を見つめる。

 その隣では、カイル様が誇らしげに胸を張っていた。

「陛下、申し上げた通りでしょう。サトウ殿の眼力は、いかなる暗殺者の刃よりも鋭いのです」

(いや、ただの賞味期限鑑定なんだけどな……)

 俺の視界では、王宮内のあちこちで数字が踊っている。

 騎士たちが持っている槍の寿命、飾られている花の鮮度、そして――。

『【国王の信頼度】賞味期限:なし(永続)』

『【提示される役職】ランク:伝説級(断れない)』

(……うわ、嫌な予感しかしない)

「サトウよ。貴殿の功績に対し、新たな役職を用意した。今日から貴殿を、我が王国の**『聖食守護職せいしょくしゅごしょく』**に任命する!」

「……はい? せいしょく……?」

「簡単に言えば、王宮料理長と、国家機密管理官と、外交官を足して3で割らない感じだ。給料は今の定食屋の百倍。さらに王宮内に専用の厨房と、昼寝用の特等室を与えよう」

 周りの騎士たちが「おおおっ!」とどよめく。

「史上最年少の守護職だ!」「あの毒を見破る眼光、ただ者ではないと思っていたぞ!」

 違う、俺はただのサラリーマンだった男だ。

 定食屋でリナちゃんに「今日のご飯も美味しいね」って言われながら、のんびり暮らしたかっただけなんだ。

「あの、陛下。俺はただの料理人でして……」

「謙遜するな。さあ、さっそく仕事だ。……実は、隣国の『鉄の女』と呼ばれる女帝が、今度会談に来る。彼女の『気難しさ』は賞味期限が切れるどころか、発酵して手がつけられん。それを貴殿の料理でなんとかしてほしいのだ」

 カイル様が耳元でささやく。

「失敗すれば、戦争になるかもしれない。頼んだぞ、サトウ殿」

『【隣国の女帝の機嫌】賞味期限:残りマイナス300日(絶望的)』

 俺は天を仰いだ。

 どうやら俺の異世界スローライフは、早くも「賞味期限切れ」になったらしい。

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