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第10話:賞味期限のない幸福

数ヶ月後。

 王都の喧騒から少し離れた場所に、新しい看板を掲げた一軒の店があった。

『定食屋・ひだまり ~龍と女帝と聖騎士が並ぶ店~』

 そこには、王宮の「聖食守護職」という仰々しい肩書きを(半分くらい)放り出した俺の姿がある。

「はい、お待たせ! 『フェニックスの目玉焼き定食・醤油多め』だ!」

 カウンターに出された皿に、真っ先に飛びついたのは、見た目は金髪の美少年、中身は数千年生きた古代龍のリュウだ。

「待っておったぞサトウ! やはりお主の醤油さばきは天下一品じゃな!」

 その隣では、隣国の女帝エカテリーナが、優雅に箸(俺が普及させた)を使いながら、鯖の味噌煮を口に運んでいる。

「……フン。これしきの味で、我が国の炭鉱権を永続無料にする私ではありませんわよ。……おかわりをいただけますかしら?」

「女帝陛下、並んでいる方の迷惑になりますので、お代わりは三杯まででお願いします」

 聖騎士カイルが、なぜか「交通整理兼、皿洗い担当」として店に馴染んでいた。

 結局、俺を奪い合っていた連中は、「サトウを独占できないなら、全員で店に通えばいい」という斜め上の結論に達したらしい。

 おかげで俺の店は、世界一治安が良いのか悪いのか分からない、カオスな聖域になってしまった。

「サトウさん、ぼーっとしない! ほら、次のお客さん。……あ、お父さんだ!」

 リナが笑顔で注文を取る。客席には、お忍び(のつもりの変装)で来た国王陛下が、よだれを垂らして順番を待っている。

 俺はふと、自分の手元を【鑑定】してみた。

『【サトウの料理人人生】賞味期限:なし(永続)』

『【本日の仕入れ】鮮度:最高(リナの愛情入り)』

(……まあ、悪くないか)

 異世界に転生したときはどうなることかと思ったが、俺のスキルはどうやら「食べ物」の期限だけじゃなく、この騒がしくて愛おしい「日常」を繋ぎ止めるためのものだったらしい。

「よし、やるか!」

 俺は再びフライパンを握る。

 最高の瞬間ピークを見極め、最高に美味い一皿を作るために。

 俺たちの物語の賞味期限は、きっと、一生切れることはないのだから。

【完】

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