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第一話:プロローグ
目の前の硬いパンに浮かんでいるのは、無情な数字だった。
『賞味期限:あと45分』
「……これ、早く出さないと石鹸みたいな味になるな」
俺、佐藤は、この異世界の片隅にある定食屋の厨房でため息をついた。
一ヶ月前、トラックに轢かれてこの世界にやってきた俺が手に入れたのは、聖剣でも魔力無限でもなく、ただの「日付チェック」の能力だった。
最初は便利だと思った。
腐った肉を見分けられるし、ワインの飲み頃も一発でわかる。
おかげで、この「ひだまり食堂」の看板娘・リナちゃんからも「サトウさんの鼻は魔法みたいね!」と頼りにされている。
平和だった。昨日までは。
「おい、サトウ! 今日は城から大物のお客さまだ。失礼のないようにしろよ!」
店主の声と同時に、ガチャンと鎧の鳴る音が響く。
現れたのは、この国でも指折りの実力者と言われる、若き聖騎士団長だった。
まぶしい銀色の鎧。凛とした佇まい。
だが、俺の視界に映ったのは、彼の頭上に浮かぶ真っ赤な数字だった。
『【忠誠心】賞味期限:残り12時間』
……おいおい、ちょっと待て。
明日の朝には、この国の英雄が反逆者に変わるってことか?
俺は手に持っていたお玉を、思わず床に落とした。




