第7話 分配の再設計
倉庫の前には、長い列ができていた。
夜明け前から並んでいる者もいる。
老人、女、子供。
そして、無言で地面を見つめる男たち。
アレクは高台に立ち、その光景を見下ろしていた。
(感情でやれば、必ず破綻する)
だからこそ、彼は感情を切り離した。
「本日より、配給制度を実施する」
ざわめきが起こる。
「内容は単純だ。
人数分を、等しく配る」
誰かが叫んだ。
「働いてる奴も、働いてない奴も同じか!」
予想通りの反応だった。
アレクは頷く。
「今は、そうだ」
その一言に、さらにざわめきが広がる。
「理由は三つある」
彼は指を一本立てた。
「一つ。
餓死者を出さないため」
二本目。
「二つ。
奪い合いを防ぐため」
三本目。
「三つ。
“余計なことを考えさせない”ためだ」
村人たちは黙り込む。
「空腹は、人を壊す。
だからまず、最低限を保証する」
一呼吸置き、続けた。
「ただし」
空気が引き締まる。
「これは永続的な制度じゃない」
ざわっとした空気。
「働いた者には、追加配給を出す」
今度は、はっきりとした動揺。
「畑を耕す者、治安を守る者、
保存食作りに協力する者」
アレクは一人ひとりを見渡した。
「働いた分は、必ず数字で評価する」
沈黙。
やがて、一人の農民が口を開いた。
「……嘘じゃないんだな?」
「嘘はつかない」
即答だった。
「数字で管理する。
誰が、どれだけ働いたかを」
その瞬間、列の空気が変わった。
不満が、理解に変わる。
完全ではない。だが、暴発はしない。
配給が始まった。
乾いた穀物。
わずかな干し肉。
量は少ないが、確実に“平等”だった。
子供が泣かない。
老人が座り込まない。
カイルが小声で言った。
「……不思議だな」
「何がだ?」
「暴れない」
アレクは頷いた。
「不満があっても、
“次が見える”と人は我慢できる」
その夜。
城の執務室で、アレクは新しい板を壁に掛けさせた。
【配給状況】
【作業参加者一覧】
【追加配給予定】
誰でも見られる場所に。
役人が戸惑いながら言う。
「ここまで公開する必要が……?」
「必要だ」
アレクは言い切った。
「見えない制度は、不信を生む」
帳簿に、新しい数字が書き込まれる。
【暴動:なし】
【盗難:減少】
【作業参加者:増加】
(……数字は、正直だ)
だが、分かっている。
これは延命措置に過ぎない。
増やさなければ、終わる。
アレクはペンを置き、静かに呟いた。
「次は……畑だな」
こうして、
フェルディナンド辺境領は「配る国家」から
「働いて回す国家」へと、一歩踏み出した。
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