第6話 飢饉の現実
結論から言えば、この領地に余裕はなかった。
アレクは倉庫の前に立ち、扉の向こうを見つめていた。
中身は、もう確認済みだ。
――食料、三週間分。
それも、今の人口で、だ。
「領主様……」
後ろに立つ役人の声が重い。
「正確には、三週間も持たない可能性があります。
配給を続ければ、二十日ほどで尽きるかと」
アレクは小さく息を吐いた。
(想定より、悪い)
改革は始まったばかり。
治安も、財政も、ようやく手を付けた段階だ。
だが――腹は待ってくれない。
村を歩くと、空気が違うことが分かった。
人の動きが鈍い。
畑に出る者が減っている。
視線が、どこか荒んでいる。
「……もう始まってるな」
カイルが隣で呟いた。
「食い詰めると、人は変わる。
盗みも、争いも増える」
その言葉を裏付けるように、役人が駆け寄ってきた。
「領主様!
市場で揉め事が――!」
現場では、干し肉を巡って言い争いが起きていた。
「俺の方が先だ!」
「金を出したのはこっちだろ!」
アレクは間に入る。
「やめろ」
その一言で、場が静まった。
「……今日から、市場での自由販売は停止する」
ざわめきが走る。
「代わりに、配給制に切り替える」
「そんな……!」
「不公平だ!」
怒号が飛ぶ。
アレクは声を荒げなかった。
「不公平なのは承知している。
だが、今は“全員が生き延びる”ことを優先する」
村人たちは納得していない。
それでも、彼の目は逸らさなかった。
「明日、倉庫を開放する。
家族構成に応じて配給する」
その夜。
城の執務室で、アレクは一人、帳簿と向き合っていた。
【食料残量:危険水域】
【流通:停止】
【不満度:上昇】
(ここを乗り切れなければ、終わりだ)
剣で守ることはできない。
魔法で増やすこともできない。
なら、やるべきことは一つ。
(――配り方と、増やし方を変える)
アレクはペンを取り、新しい項目を書き加えた。
【配給制度】
【農地再利用】
【保存食の確保】
夜が明けるころ、彼はまだ机に向かっていた。
窓の外では、村人たちが倉庫の前に並び始めている。
不安と、疑念と、それでもわずかな期待を抱えながら。
アレクは立ち上がり、静かに呟いた。
「……ここが正念場だ」
こうして、フェルディナンド辺境領は、
本当の意味で「生き残り」を賭けた戦いに入った。
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