第5話 最初の味方
夜明け前の村は、ひどく静かだった。
アレクは一人、城の外を歩いていた。
眠れなかったわけではない。考え事をしていただけだ。
増税命令を拒否した。
つまり、王都に睨まれた。
(それでも、後悔はない)
彼は村の外れで、剣を振るう影を見つけた。
まだ薄暗い中、何度も、何度も。
無駄のない動き。
「……兵士か」
声をかけると、男はすぐに剣を下ろした。
「見ていたのか」
年は二十代前半だろう。
傷だらけの腕。
だが、目は死んでいなかった。
「名前は?」
「カイルだ。元王国兵」
アレクは頷いた。
「今は?」
「流れ者だ」
短い言葉だった。
「この村は、危険だ」
カイルが続ける。
「盗賊が近くにいる。
兵もいないなら、いずれ襲われる」
「知っている」
アレクは即答した。
「だから、雇いたい」
カイルが眉を上げる。
「……金は?」
「今は少ない。
だが、誤魔化さない」
アレクは正面から言った。
「危険手当も、食事も、ちゃんと出す。
仕事として、治安を任せたい」
沈黙。
カイルはしばらくアレクを見つめ、やがて笑った。
「……面白い領主だな」
「断るか?」
「いや」
剣を肩に担ぐ。
「条件が一つある」
「言ってくれ」
「仲間も雇え」
カイルは言った。
「俺みたいな連中が、他にもいる。
行き場を失った兵だ」
アレクは少し考え、すぐに答えた。
「いい」
即答だった。
「働く意思があるなら、歓迎する」
カイルは一瞬、目を見開き、次に深く頭を下げた。
「……感謝する」
その様子を見て、アレクは確信する。
(こいつは、裏切らない)
その日、最初の雇用契約が結ばれた。
村人たちは最初、警戒した。
「兵なんて、金食い虫だ」
「盗賊と変わらない」
だが、夜回りが始まり、略奪が止まると、空気は変わった。
小さな子供が、カイルに手を振る。
彼は照れたように返した。
城の執務室で、アレクは新しい帳簿に書き込む。
【治安費:増】
【被害額:減】
(……数字は、ちゃんと応えてくれる)
カイルはアレクの前で、剣を鳴らした。
「領主様」
「なんだ?」
「……この領地、守る価値はある」
その言葉に、アレクは小さく笑った。
「そう言ってもらえるなら、悪くないな」
こうして、フェルディナンド辺境領に、
最初の「守る力」が生まれた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




