第4話 増税命令
城の執務室に、王都からの使者が現れたのは翌朝だった。
派手な装飾の外套。
よく手入れされた革靴。
この地には似つかわしくない身なり。
「フェルディナンド辺境領主、アレク・フェルディナンド殿」
使者は形式通りの礼を取り、羊皮紙を差し出した。
「王都より正式な通達です」
アレクは受け取り、内容に目を通す。
——上納金、増額。
理由は「王国財政の逼迫」。
(……来たか)
想定内だった。
むしろ、遅いくらいだ。
「支払期限は?」
「一ヶ月後でございます」
役人たちがざわつく。
「……現状では不可能だ」
アレクは淡々と答えた。
使者が眉をひそめる。
「それは承知しております。
しかし、命令は命令です」
「では、数字を見せよう」
アレクは帳簿を開き、机の上に広げた。
「これが現在の財政状況だ。
この額を払えば、領地は確実に飢える」
「それでも、王命は絶対です」
「なら、質問する」
アレクは顔を上げた。
「この命令は、民の生存を前提に出されたものか?」
使者が言葉に詰まる。
「……それは」
「答えられないなら、俺が答える」
アレクの声は静かだった。
「違う。
この命令は、現場を見ていない」
場の空気が張りつめる。
「よって、拒否する」
役人たちが息を呑む。
「な……拒否?」
使者の声が裏返る。
「正確には“延期と再交渉”だ」
アレクは続けた。
「払える額なら払う。
だが、払えない額は払わない」
「それは反逆と――」
「違う」
きっぱりと否定した。
「無理な徴収で領地が滅びれば、
最終的に王国の損失になる」
帳簿を指で叩く。
「俺は、数字でそれを証明できる」
使者は唇を噛みしめた。
「……この件、王都へ報告します」
「どうぞ」
アレクは微笑みすら浮かべなかった。
「ただし、覚えておいてほしい」
一歩、踏み出す。
「この領地が立ち直った時、
誰が正しかったかは、数字が示す」
使者は何も言わず、踵を返した。
扉が閉まった瞬間、役人の一人が震える声で言った。
「領主様……敵を作りましたな」
「最初からだ」
アレクは椅子に腰を下ろす。
「黙って搾取されるつもりはない」
窓の外では、村人たちが畑を耕していた。
(守るべきものは、あそこだ)
アレクは帳簿を閉じ、静かに決意を固める。
(ここからは……政治だ)
その日、フェルディナンド辺境領は、
王都にとって「問題児」となった。
そしてそれは、
後に“独立”への第一歩と呼ばれることになる。
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