第3話 役人粛清
会合が終わっても、アレクの仕事は終わらなかった。
城の小会議室。
薄暗い部屋に、数名の役人が呼び出されていた。
彼らの表情には、不満と不安が入り混じっている。
「さて」
アレクは帳簿を机に置き、静かに口を開いた。
「まず確認する。
この領地の会計を担当していたのは、誰だ?」
数秒の沈黙。
やがて、太った中年の男が一歩前に出た。
「……わ、私でございます」
「そうか」
アレクは頷き、次の帳簿を開いた。
「では聞こう。
この“修繕費”の支出について説明してくれ」
男は一瞬、視線を泳がせた。
「そ、それは……老朽化した城壁の――」
「城壁は修繕されていない」
即座に遮る。
「見た限り、五年以上は手が入っていない」
男の額に汗が浮かぶ。
「で、ですが予算としては――」
「もう一度聞く」
アレクの声は低かった。
「金は、どこに消えた?」
重い沈黙が落ちた。
別の役人が口を挟む。
「若い領主様。
この地は昔から、そういう――」
「昔から?」
アレクはゆっくりと視線を向けた。
「“昔から腐っていた”という意味か?」
役人たちの表情が固まる。
アレクは立ち上がった。
「俺は、剣も魔法も得意じゃない。
だが、数字だけは見逃さない」
帳簿を叩く。
「ここに書かれているのは、民の血と汗だ。
それを掠め取る者に、居場所はない」
太った役人が叫ぶ。
「で、ですが! 本国の貴族とも話はついて――」
「なら尚更だ」
アレクは一歩踏み出した。
「本国の名を使って横領するなら、
ここには置けない」
役人の顔が青ざめる。
「本日付で、会計官を解任する。
他、同様の不正が見つかった者も全員だ」
ざわめきが広がる。
「待ってください!
彼らを切れば、仕事が――」
「仕事は回る」
きっぱりと言い切る。
「回らないなら、俺がやる」
その言葉に、誰も口を挟めなかった。
アレクは最後に告げた。
「この領地では、
“誤魔化した者が得をする”時代は終わりだ」
——翌日。
解任された役人たちは王都へ送還された。
護衛付きで、逃げ道はない。
代わりに残ったのは、経験は浅いが、不正に手を染めていない者たちだった。
村では噂が広がる。
「若い領主様、本気らしいぞ」
「金に汚い連中を追い出したって?」
「……信じていいのか?」
アレクは城の窓から、それを聞いていた。
(信じるかどうかは、これからだ)
彼は新しい帳簿を開く。
まっさらなページ。
ゼロから書き直すための、最初の一行。
(次は……税だな)
剣も魔法も使わない戦いは、まだ始まったばかりだった。
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