第23話 選択
王都からの文書は、思ったよりも早く届いた。
丁寧な言葉。
だが、行間に圧が滲んでいる。
> フェルディナンド辺境領について、
> 王国としての最終的な方針を協議したい。
> ついては、条件を提示する。
条件は三つだった。
一、王国直轄の監督官を常駐させること。
二、警備隊の指揮権を王国軍に委ねること。
三、税制の再編を王国基準に戻すこと。
読み終えた瞬間、部屋は静まり返った。
「……実質、再支配ですね」
役人の一人が、絞り出すように言う。
アレクは否定しなかった。
「そうだな」
拒否すればどうなるか。
全員が分かっていた。
圧力。
干渉。
最悪の場合、武力。
だが、受け入れれば――。
「今まで積み上げた制度は、崩れます」
カイルの声は低い。
「治安も、配給も、
王国軍の基準に置き換えられる」
アレクは、帳簿を見つめていた。
数字は、嘘をつかない。
【王国案採用時:安定度 低下】
【反発率:上昇】
【長期維持:困難】
その夜、アレクは広場に人を集めた。
警備隊。
役人。
農民。
商人。
全員だ。
「王都から、条件が来た」
ざわめき。
「受け入れれば、
王国の一部として安全は保証される」
誰かが頷く。
「だが」
アレクは続けた。
「今のやり方は、続けられない」
沈黙。
「俺は、決められない」
意外な言葉に、空気が揺れた。
「これは、俺一人の問題じゃない」
アレクは、一人ひとりを見た。
「この領地で、生きていくのは、俺じゃない。
お前たちだ」
しばらく、誰も口を開かなかった。
最初に声を上げたのは、老農だった。
「……わしは、今の方がいい」
次に、警備隊の若者。
「王国軍に任せたら、
俺たちは駒になります」
商人が続く。
「税が戻れば、商いは死にます」
反対意見も、出た。
「逆らえば、潰されるぞ」
「今は、静かに従うべきだ」
議論は、夜更けまで続いた。
そして、最後に。
全員の視線が、アレクに集まった。
「……決めてください、領主様」
アレクは、深く息を吸った。
「完全な独立は、しない」
ざわめき。
「だが、これ以上の干渉も、受け入れない」
静寂。
「王国とは、距離を取る。
だが、敵にはならない」
それは、綱渡りの選択だった。
「この領地は、
自分たちの制度で、自分たちを守る」
カイルが、静かに頷いた。
「……覚悟が要ります」
「分かっている」
アレクは、はっきりと言った。
「だが、これが一番“壊れない”選択だ」
その夜、決断は固まった。
従属でも、反乱でもない。
第三の道。
フェルディナンド辺境領は、
初めて「自分たちで決めた」。
それが、国家への最後の一歩だった。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
あと数話で完結になります。
ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。




