第22話 暗殺未遂
嫌な予感というものは、たいてい当たる。
アレクは城の回廊を歩きながら、無意識に足を止めていた。
夜風が冷たい。だが、それだけではない。
(……静かすぎる)
警備の足音が、ひとつ足りない。
次の瞬間だった。
――ヒュッ。
空気を裂く音。
アレクは反射的に身を伏せた。
石壁に、短剣が突き刺さる。
「伏せろ!」
同時に、カイルの叫び声。
影が二つ、屋根の上を跳ねた。
「追うな!」
アレクは叫んだ。
警備隊が走り出しかけるのを、制止する。
相手は逃げる前提だ。追えば、逆に被害が出る。
短剣は、毒付きだった。
検分した老人が、顔をしかめる。
「致死性ではないが……確実に殺すつもりだったな」
「王都絡みか?」
カイルの問いに、アレクは即答しなかった。
「……断定はできない」
だが、心当たりはある。
数字で殴った。
王都にとって「面倒な成功例」になった。
それだけで、理由としては十分だ。
翌朝、臨時の会合が開かれた。
「領主様を狙うなんて……!」
「もう、この領地は安全じゃないのか?」
不安が、怒りに変わりつつある。
アレクは、皆の前に立った。
「昨夜、暗殺未遂があった」
ざわめき。
「だが、犯人は失敗した」
事実だけを述べる。
「そして、これが重要だ」
彼は、短剣を掲げた。
「これは、俺個人を狙ったものだ」
村人たちが、息を呑む。
「つまり」
一呼吸置いて、続ける。
「この領地そのものを、武力で潰すつもりはない」
沈黙。
「政治の圧力だ」
カイルが一歩前に出る。
「警備体制を強化する。
領主個人ではなく、“制度として”守る」
アレクは頷いた。
「俺が倒れても、国が止まらないようにする」
その言葉は、覚悟そのものだった。
会合後、カイルが低く言う。
「……怖くはないんですか」
アレクは、少し考えた。
「怖いさ」
正直に答える。
「でも、もっと怖いのは――
俺がいるから国が回ってる状態だ」
帳簿を開き、新しい項目を書く。
【領主依存度:高】
【制度移行:要】
【個人防衛 → 組織防衛】
(……ここが、次の段階だ)
夜。
警備は二重になった。
灯りの配置も変わった。
だが、アレクは知っている。
これは終わりではない。
「最後の確認」だ。
――この少年は、折れるか?
そう試されている。
アレクは、静かにペンを置いた。
「……折れないさ」
剣も魔法も使えない。
だが、国を動かす力は、もう個人の中にはない。
それを証明できれば、
この戦いは、終わる。
フェルディナンド辺境領は、
次の選択を迫られていた。
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