第20話 視察官
王国の視察官が到着したのは、昼前だった。
立派な馬。
整えられた外套。
随行は二名だけ。
威圧ではなく、観察のための人数だ。
(本気で見に来たな)
アレクは城門で出迎えた。
「フェルディナンド辺境領主、アレク・フェルディナンドです」
「王国財務院所属、マルクス・レインと申します」
視察官は柔らかく笑った。
だが、目は笑っていない。
「本日は、お時間をいただければ」
「もちろんです」
村の案内は、意図的に順序を組んでいた。
まず、倉庫。
次に、訓練場。
最後に、市場。
マルクスは、ほとんど質問をしなかった。
ただ、見る。
量。
動線。
人の表情。
倉庫で、初めて口を開いた。
「……空ではありませんね」
「配給制ですので」
「備蓄量は?」
「冬を越える最低限です」
誇らない。
だが、隠さない。
訓練場では、警備隊が動いていた。
「常設ですか?」
「はい。八名」
「少ない」
「ですが、必要十分です」
マルクスは頷いた。
市場では、取引が行われていた。
活気はないが、停滞もしていない。
「税は?」
「今は、最低限です」
「王都への上納金は?」
「払える分だけ」
沈黙。
視察官は、ようやくアレクを見た。
「……正直に言います」
「どうぞ」
「この領地は、
王国基準では“失敗していない”」
役人たちが息を呑む。
「だが、成功とも言えない」
マルクスは続けた。
「理由は分かりますか?」
アレクは即答しなかった。
数秒考え、答える。
「……拡張していないからです」
「正解です」
視察官は、わずかに口角を上げた。
「守りは堅実。
だが、攻めがない」
「今は、生き残りが最優先です」
「でしょうね」
マルクスは手帳を閉じた。
「ですから、王都としては――
“保留”です」
それは、処刑でも承認でもない。
最も厄介な評価だった。
「ただし」
一歩、近づく。
「次の数字次第では、
扱いが変わります」
「……増税ですか?」
「いいえ」
マルクスは首を振った。
「成果です」
それだけ言うと、踵を返した。
夕方。
視察官一行は去った。
役人の一人が、吐息混じりに言う。
「……助かりました、よね?」
「一時的には」
アレクは答えた。
「だが、見られた」
数字。
制度。
そして――可能性。
(次は、成果を出せと言ってくる)
夜。
アレクは帳簿に、新しい見出しを書いた。
【王都評価:保留】
【次期要求:成果】
【猶予:短】
剣を振るうより、
罠を張るより、
厄介な戦いが始まった。
フェルディナンド辺境領は、
今や「失敗してはいけない領地」になった。
それは、
王国の視線を一身に受けるという意味でもあった。
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