第17話 本腰
盗賊は、負けたとは思っていなかった。
森の奥、小さな焚き火を囲んで、男たちは身を寄せ合っていた。
「……妙だな」
そう言ったのは、頭目だった。
年嵩で、顔に古傷がある。
場数だけは踏んでいる男だ。
「罠があった。
配置も、声の出し方も……即席じゃねぇ」
部下の一人が舌打ちする。
「ただの寒村だと思ったんだがな」
「思った“だけ”だ」
頭目は焚き火を睨んだ。
「準備してる。
しかも、逃げ道まで考えてやがる」
盗賊たちは、ここで初めて理解する。
あの村は、
奪える場所ではない。
だが――
無視できる場所でもない。
「どうする?」
沈黙。
頭目は、低く言った。
「次は、人数を増やす」
「……殺るのか?」
「殺さねぇ」
一瞬の間。
「だが、見せる」
恐怖を。
無力感を。
「一人、持っていく」
その頃、フェルディナンド辺境領。
アレクは、帳簿から顔を上げた。
「……数字が、合わない」
穀物でも、金でもない。
人だ。
【村外作業者:1名未帰還】
カイルが、すでに立ち上がっていた。
「……やられました」
「死んだか?」
「まだ分かりません」
だが、全員が理解していた。
次の段階に来た、と。
捜索は、夜明けと同時に行われた。
森の縁で、見つかった。
若い男。
警備隊ではない。
森の作業に出ていた民だ。
命はあった。
だが――
縛られ、殴られ、
村の見える位置に捨てられていた。
「……わざとだな」
カイルの声が低くなる。
アレクは、何も言えなかった。
医者代わりの老人が、首を振る。
「命に別状はないが……
しばらく、働けん」
村に戻ると、空気が一変していた。
「次は、俺たちか……?」
「守れるって言ったじゃないか……」
恐怖が、じわじわと染み出す。
アレクは、広場に立った。
いつものように、逃げなかった。
「連れて行かれた者がいる」
ざわめき。
「だが、戻ってきた。
命はある」
誰かが叫ぶ。
「それで安心しろってのか!」
アレクは、否定しなかった。
「安心できないのは、正しい」
沈黙。
「だから、ここから先は――
本気で守る」
カイルが一歩前に出る。
「夜間の外出は禁止。
単独行動も禁止だ」
「畑は?」
「昼だけだ。
必ず複数で動く」
制限が増える。
自由は減る。
だが、誰も反論しなかった。
怖さが、それを上回っていた。
夜。
アレクは一人、執務室で地図を見つめていた。
(……奪いに来てるんじゃない)
折りに来ている。
この村の心を。
数字を睨む。
【治安安定度:低下】
【恐怖指数:上昇】
【次被害予測:高】
剣ではなく、
罠でもなく、
恐怖そのものが、敵だ。
アレクは、静かに呟いた。
「……ここが、踏ん張りどころだな」
次に必要なのは、
撃退でも、追い返しでもない。
「反転」だ。
奪われる側から、
主導権を握る側へ。
フェルディナンド辺境領は、
クライマックスへと、
静かに足を踏み入れた。
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