第15話 守る力を、制度にする
勝った――とは、言えなかった。
被害はない。
死者もいない。
だが、それは「運が良かった」だけかもしれない。
アレクは、執務室で帳簿と向き合っていた。
【防衛成功:1】
【人員:即席】
【継続性:低】
(……次も同じとは限らない)
扉がノックされる。
「入れ」
カイルだった。
「自警団の連中、浮き足立ってます」
「怖がっている?」
「半分は。
もう半分は……自信を持ちすぎている」
アレクは頷いた。
「どちらも危険だな」
勝利の直後が、一番危ない。
調子に乗るか、萎縮するか。
どちらに転んでも、組織は崩れる。
「だから、変える」
アレクは地図を閉じ、言った。
「何を?」
「自警団を、常設にする」
カイルが目を細める。
「……金がかかります」
「分かっている」
帳簿を指で叩く。
「だが、今回分かった。
守れなければ、すべて無意味だ」
その日の午後、広場に人が集められた。
「昨夜、盗賊を退けた」
ざわめき。
「だが、これは偶然の積み重ねだ」
正直に言う。
「次も同じとは限らない」
沈黙。
「だから、守る力を制度にする」
村人たちの顔が引き締まる。
「希望者を募る。
常設の警備隊を作る」
「給金は?」
「出す」
即答だった。
「少ないが、必ず払う」
誰かが叫ぶ。
「そんな金、あるのか!」
「削る」
アレクは言った。
「贅沢を削る。
無駄を削る」
そして、続けた。
「命を削るより、ずっと安い」
沈黙の後、
一人、また一人と手が上がる。
農民。
元傭兵。
若者。
カイルは、その光景を黙って見ていた。
(……集まりすぎだ)
それは喜びでもあり、
同時に責任でもあった。
会合後。
「想定より多いです」
「分かっている」
アレクは苦笑した。
「だから、全員は取らない」
「選別しますか?」
「訓練で落とす」
カイルは、はっきりと頷いた。
「それがいい」
帳簿に、新しい項目が加わる。
【常設警備隊:設立】
【人件費:増】
【治安安定度:上昇見込み】
アレクはペンを置いた。
(……国家になり始めたな)
それは、嬉しさよりも重さを伴う実感だった。
守ると決めた以上、
守れなかった時の責任も、背負う。
窓の外では、
訓練のために集まった者たちが並んでいる。
フェルディナンド辺境領は、
もはや「運に任せる場所」ではなかった。
次に来るのは――
この選択の代償だ。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




