第14話 割に合わない戦場
最初に動いたのは、盗賊のほうだった。
夜の森が、わずかに揺れる。
風ではない。人の動きだ。
「……左、二」
カイルの小さな声が、合図とともに闇に溶けた。
アレクは城壁の上から、じっと見下ろしていた。
心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
(落ち着け)
敵は十数人。
完全武装ではない。
――奪えるなら奪う、程度の連中だ。
それが、救いだった。
盗賊たちは、村の外れに回り込む。
正面からは来ない。
「倉庫狙いだな」
カイルが言う。
「想定通りだ」
アレクは短く答えた。
倉庫周辺には、人影がないように見える。
だが、実際には違う。
物陰。
屋根の上。
通路の影。
すべて、配置済みだ。
盗賊の一人が、倉庫の扉に手をかけた瞬間。
――音が鳴った。
乾いた金属音。
「っ!?」
足元の簡易罠が作動し、男が転倒する。
「罠だ!」
同時に、松明が灯る。
「今だ!」
カイルの号令。
自警団が、一斉に姿を現した。
だが、突撃はしない。
包囲もしない。
距離を保つ。
「近づくな!」
「逃げ道を塞げ!」
石が投げられる。
松明が振られる。
剣は抜かない。
盗賊たちは混乱した。
「なんだこいつら……!」
「数、思ったより多いぞ!」
実際の人数は、彼らが想定したより少ない。
だが、“そう見えない”配置だった。
カイルが前に出る。
「ここは割に合わない」
低く、よく通る声。
「怪我人を連れて帰れ」
一瞬の沈黙。
盗賊の頭らしき男が、舌打ちする。
「……撤退だ!」
彼らは、森へと消えていった。
追撃はしない。
それが、事前の取り決めだった。
夜が明ける。
被害は、軽微だった。
【負傷者:軽傷1】
【盗難:なし】
【死亡:0】
アレクは、その数字を見て、ようやく息を吐いた。
「……守れたな」
「ええ」
カイルは頷く。
「いい防衛でした。
“勝ち”じゃないが、“成功”です」
村には、静かなざわめきが広がっていた。
「盗賊、逃げたらしいぞ」
「何も取られてないって……」
恐怖は残っている。
だが、絶望はない。
アレクは広場に立ち、短く告げた。
「昨夜、盗賊が来た」
村人たちが息を呑む。
「だが、被害は出ていない」
小さなどよめき。
「これからも、狙われる可能性はある」
正直に言う。
「だが、準備すれば防げる」
彼は、深く頭を下げた。
「協力してくれて、ありがとう」
一瞬の静寂の後、
誰かが、拍手した。
それはやがて、広がっていった。
城に戻る途中、カイルが言った。
「次は、もっと大きな連中が来るかもしれません」
「だろうな」
アレクは頷く。
「だが、今日で一つ分かった」
「何が?」
「この領地は、
もう“無抵抗な獲物”じゃない」
数字と制度と、人の意思。
それらが、初めて“外敵”に通じた夜だった。
フェルディナンド辺境領は、
確かに一段、強くなった。
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