第13話 盗賊の影
異変は、数字より先に空気に出た。
朝の村は、いつもより静かだった。
人の数は変わらない。
仕事も始まっている。
それでも、何かが違う。
「……視線が多い」
カイルの言葉に、アレクは頷いた。
「村の中か?」
「いや。
外だ」
城壁の上から見える街道。
雪解けでぬかるんだ道に、新しい轍はない。
――それが不自然だった。
(人が来ていない、のではない。
“見えないように来ている”)
アレクはすぐに動いた。
「倉庫の警備を二重に。
夜回りは三交代制に切り替える」
「人手は?」
「農作業を一部止める。
短期的な損失は許容する」
数字が頭の中で弾ける。
【農業効率:一時低下】
【治安リスク:大】
【盗難被害:未発生】
(今は、作物より命だ)
昼過ぎ。
村の外れで、問題が起きた。
「……家畜が、いない?」
小屋の扉は壊されていない。
足跡も、少ない。
「持っていかれたんじゃない」
カイルが言った。
「“試された”」
「試し?」
「どれくらいで気づくか。
どれくらいで動くか」
アレクは歯を噛みしめた。
(完全に、狙われている)
夕方、臨時の会合が開かれた。
「盗賊が来るのか?」
「戦争になるのか?」
不安が広がる。
アレクは、正面から答えた。
「戦争にはしない」
ざわめき。
「だが、襲われる可能性は高い」
沈黙。
「だから、守る準備をする」
彼は地図を広げた。
「この村は、奪えば楽に見える。
だが、“割に合わない”と思わせる」
カイルが補足する。
「夜間の見回りを増やす。
侵入口は限定する」
「罠は?」
「簡易的なものだけ。
怪我をさせるのが目的じゃない」
アレクは頷いた。
「追い払う。
それが目的だ」
夜。
焚き火は最小限。
灯りも落とす。
静まり返った村で、
自警団が息を潜めて配置についた。
アレクは城壁の上に立つ。
剣は持っていない。
だが、逃げる気もなかった。
(ここが、分かれ目だ)
今までの改革は、
すべて“内側”に向いていた。
だが今回は違う。
外から、奪いに来る。
それを退けられなければ、
この領地に未来はない。
――森が、鳴いた。
雪を踏みしめる、わずかな音。
カイルが、短く合図を送る。
来た。
数は、多くない。
だが、慣れている。
アレクは、静かに呟いた。
「……始まるな」
剣ではなく、
準備と配置と判断で。
フェルディナンド辺境領、
初めての“防衛”が、幕を開けた。
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