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剣も魔法も平均以下の少年領主、数字と制度で破綻領地を国家にする  作者: 芋平


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幕間 静かすぎる夜 (カイル視点)

 静かすぎる夜は、信用しない。


 それが、兵として生き残ってきた俺の経験則だ。


 雪は深くない。

 風も弱い。

 月も出ている。


 ――動ける。


 城壁の上から、街道の先を睨む。


 白い景色に、黒い線。

 獣の足跡……じゃない。


「……人だな」


 数は少ない。

 三、いや四。


 斥候だ。


 慣れた動き。

 無駄がない。


(盗賊か……それとも)


 冬前に動く連中は、決まっている。

 食い詰めた雑魚か、

 もしくは――“狙って来る”奴らだ。


 俺は音を立てずに、城壁を降りた。


 自警団の連中は、まだ浅い。

 今は起こさない。


 森の縁まで出ると、足跡がはっきりしていた。


 荷は軽い。

 武装は最低限。


(……下見だ)


 村を襲うつもりなら、

 まず様子を見る。


 人の動き。

 夜回りの間隔。

 倉庫の位置。


 ――全部、見られている。


 城に戻ると、灯りが一つだけ点いていた。


 執務室だ。


 案の定、領主様は起きていた。


「……外が静かすぎる」


 俺が言うと、

 彼はペンを止め、顔を上げた。


「足跡か?」


「斥候だ。

 三、四人。

 動きがいい」


 彼は、地図を引き寄せた。


「街道沿いか」


「はい」


 少しの沈黙。


「……来るな」


「ええ」


 冬を越す準備が整った場所は、

 “奪えば楽”に見える。


 それを、あいつらは嗅ぎつける。


「自警団を増やす」


 俺は言った。


「夜回りの間隔を詰める。

 合図も決め直す」


 領主様は、すぐに頷いた。


「予算は?」


「最低限でいい。

 士気が下がらなければ」


 彼は帳簿を開き、数字を確認する。


 ……相変わらずだ。


(だが、悪くない)


 前に仕えていた貴族は、

 数字を見ずに命令だけ出した。


 この少年は違う。


 命令を出す前に、

 必ず「続くか」を考える。


 それは、兵にとってありがたい。


「……戦いになるか?」


 彼が、低く聞いた。


「小競り合いは避けられません」


 正直に答える。


「ただし、

 今なら“勝てる形”にできます」


 彼は目を閉じ、短く息を吐いた。


「犠牲は?」


「出さずに済む可能性が高い。

 ――備えれば」


 彼は、静かに言った。


「なら、備える」


 その声には、迷いがなかった。


 城を出ると、夜は相変わらず静かだった。


 だがもう、俺には分かる。


 この静けさは、嵐の前だ。


 そして――

 この領地は、もう“無防備な獲物”じゃない。


 俺は剣の柄に手を置き、夜を睨んだ。


(来るなら来い)


 守る価値のある場所だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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