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剣も魔法も平均以下の少年領主、数字と制度で破綻領地を国家にする  作者: 芋平


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第12話 最初の冬

 初雪は、夜半に静かに降った。


 朝、村は白く覆われていた。

 音が、吸い込まれたように消えている。


「……来たな」


 アレクは窓の外を見ながら、呟いた。


 冬だ。


 城の中は、思ったよりも慌ただしかった。


「配給は?」


「滞りなく。

 保存食の回転も問題ありません」


「燃料は?」


「計画通りです」


 役人たちの報告は、どれも落ち着いていた。

 それだけで、胸の奥が少し軽くなる。


(……少なくとも、崩れてはいない)


 だが、冬は数字だけでは測れない。


 昼前、カイルが顔を曇らせて戻ってきた。


「病人が出た」


「重いか?」


「子供だ。

 高熱」


 医者はいない。

 薬も乏しい。


 アレクは即座に指示を出した。


「暖かい部屋を確保。

 保存している薬草を使え」


「……足りるか?」


「足りなくても、やる」


 幸い、数日で熱は下がった。


 だが、その間、村には不安が広がった。


「やっぱり冬は……」


「食べ物はあっても、病気が……」


 アレクは、広場に立った。


「聞いてほしい」


 集まった村人たちの顔は、硬い。


「冬は、危険だ。

 だが、今までと違う」


 彼は倉庫の方を指した。


「食料はある。

 燃料もある」


 そして、自分を指す。


「問題が起きたら、

 俺が前に出る」


 その言葉に、誰かが小さく頷いた。


 雪の日は、仕事が減る。

 だが、何もしない日は作らなかった。


 道の除雪。

 建物の補修。

 子供の世話。


 小さな仕事が、毎日用意された。


 帳簿には、地味な数字が並ぶ。


【冬季死亡:0】

【配給滞留:なし】

【作業参加率:安定】


 アレクは、その行を何度も見返した。


(……越えられる)


 完璧ではない。

 だが、致命的でもない。


 夜。


 城の外で、焚き火を囲む人々の姿があった。


 笑顔は少ない。

 だが、沈黙は穏やかだった。


 カイルが、低い声で言う。


「……冬の間、外は静かになる」


「だが、その前が危険だ」


 アレクは地図を思い出していた。


 街道。

 森。

 雪が深くなる前に、動ける者たち。


「備えは、続ける」


 彼は焚き火の火を見つめながら言った。


「この冬を越えれば、

 この領地は“偶然生き残った場所”じゃなくなる」


 それは、確信だった。


 最初の冬は、まだ始まったばかりだ。


 だがフェルディナンド辺境領は、

 確かに“生きている”。


 そして――

 静けさの裏で、次の火種は、すでに動き始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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