第11話 冬支度
冬は、待ってくれない。
アレクは朝の冷たい空気を肺に入れながら、村を見渡していた。
吐く息が、わずかに白い。
「……もう、来てるな」
霜はまだ降りていない。
だが、風の匂いが変わった。
城の執務室では、簡単な会合が開かれていた。
「現状の食料備蓄は?」
「今の配給量を維持した場合、
冬の終わりまでは……ぎりぎりです」
役人の声は正直だった。
足りないとは言わない。
だが、余裕もない。
「つまり」
アレクがまとめる。
「何か一つでも想定外が起きれば、詰む」
誰も否定しなかった。
盗難。
病。
外部からの流入。
どれも、冬には致命傷になる。
「だから、冬支度をする」
アレクは立ち上がった。
「保存食の拡充、燃料の確保、
そして……人の配置換えだ」
まず、保存食。
干し肉、乾燥根菜、塩蔵。
すでに始めているが、量が足りない。
「今からでも間に合うのか?」
「間に合わせる」
即答だった。
「全員でやれば」
次に、燃料。
「森の管理を始める。
無計画に切らない」
「……今まで、そんな余裕は」
「今作る」
最後に、人。
「冬は、畑仕事が減る。
その人手を、保存と修繕に回す」
役人が目を見開く。
「全員、仕事を用意するのですか?」
「仕事がないと、人は不安になる」
アレクは静かに言った。
「不安は、争いを生む」
その日の午後から、村は動き出した。
森では、計画的に木が切られた。
若木は残し、古木だけを。
倉庫では、干し棚が増設される。
子供たちも、小さな作業を手伝った。
夜。
焚き火の数が、少し増えた。
それを見て、アレクは胸の奥が締めつけられる。
(……これでも、足りるか分からない)
完璧な備えなど、存在しない。
だが、やらなければ確実に死ぬ。
帳簿に、新しい項目が並ぶ。
【保存食生産:増】
【燃料備蓄:進行中】
【冬季雇用:開始】
数字は、ゆっくりだが、確実に動いている。
カイルが、城壁の上から声をかけた。
「……周囲が、静かすぎる」
「何かあるか?」
「分からない。
だが、冬前は動きやすい」
アレクは頷いた。
冬は、敵も動きにくい。
だからこそ、その前が危険だ。
村に戻ると、老人が声をかけてきた。
「領主様」
「どうしました?」
「……前は、冬が来るのが怖かった」
少し間を置いて、続ける。
「今は……怖いが、
何もせず待つよりは、ましだ」
アレクは、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
その夜、彼は机に向かい、地図を広げた。
村。
森。
街道。
そして、赤く印を付ける。
(……来るなら、ここだ)
冬は、試練だ。
だが、その前に――
フェルディナンド辺境領は、
もう一つの「試験」を迎えようとしていた。
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