第10話 前世の知恵
小さな成功は、いつも目立たない。
アレクは城の裏手にある小屋を覗き込み、鼻をしかめた。
「……臭いな」
「だろ?」
カイルが肩をすくめる。
「だが、腐ってはいない」
小屋の中には、干された根菜と肉。
そして、浅く掘られた地面。
(……思い出した)
前世の記憶が、はっきりと形になる。
「発酵と、乾燥だ」
「は?」
「完全に保存する必要はない。
“少し延ばす”だけでいい」
アレクはすぐに指示を出した。
「根菜は土に埋める。
肉は塩を多めにして、風通しを良くする」
「そんなので、持つのか?」
「三日は延びる。
いや、五日は行ける」
役人が半信半疑で従う。
数日後。
「……腐っていません」
「むしろ、前より匂いが抑えられてます」
驚きの声が上がる。
アレクは小さく息を吐いた。
(当たり前のことでも、
知らなければ“魔法”だ)
だが、それだけでは終わらなかった。
畑の一角。
老農と並んで、土をいじる。
「ここは、固すぎる」
「水が溜まる」
アレクは頷き、土に灰を混ぜた。
「燃えカスだ。
土を軽くする」
老農が目を見開く。
「……確かに、違う」
試験区画で、小さな芽が出た。
ほんのわずか。
だが、確かな成果。
村に噂が広がる。
「畑で芽が出たらしい」
「食い物が、増えるかも……」
夜。
帳簿に、久しぶりに“良い数字”が並ぶ。
【保存可能日数:+5】
【試験区画:成功】
【不満度:微減】
アレクは椅子に深く座り込んだ。
(……これでいい)
派手じゃない。
奇跡でもない。
だが、確実だ。
カイルが言う。
「人の目が、変わってきた」
「まだ、油断はできない」
アレクは窓の外を見る。
畑で、人が動いている。
笑顔はない。
だが、諦めもない。
――生き残れるかもしれない。
その“かもしれない”が、
人を前に進ませる。
アレクはペンを置き、静かに言った。
「……次は、冬支度だ」
こうして、
フェルディナンド辺境領は、
わずかな希望を手に入れた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




