第56話 夜のお散歩
部屋へと戻ると、自分のベッドに倒れ込んだ。ベッドのふかふか具合が、体全体に感じられる。
もうこのまま寝てしまおうかと考えていた時、俺の携帯へと電話の着信が来た。
人が寝ようとしているのに、どんな迷惑なやつだと思い、ながら携帯を取って電話に出た。
「もしもし?」
「あ、伊吹? 今日、委員会だったんじゃないか。だったら放課後の断っておけよ。俺、真希と待ってたんだからな」
電話に出ると、相手は優斗であった。
そういえば、天音ちゃんと八坂が来る前に、優斗と真希と遊ぶ約束をしていた。
いけない、すっかり忘れたいた。
「悪い、忘れてた」
「別にいいさ……それで……委員会でなんかあったのか?」
……なんで優斗にまでその話が通っているのだろうか。
不思議でたまらなかった。美也の仕業ではなかろう。かといって八坂か? いや、流石にあの状況で周りに言いふらせような人間ではないはずだ。
それならどうして?
「いや、お前のこと待ってたらすんごい不機嫌な瀬戸さんが下駄箱に来てな。『峯岸くんは委員会だから帰った方がいいわよ』って言ってきたんだよ。瀬戸さんがあんなに不機嫌になるなんて、何があったんだろうなって」
まさかの天音ちゃんであったか。
予想の斜め上を行く回答であったが、俺は焦らずに優斗との話を続ける。
「まぁちょっとな……でも、大丈夫だ」
「それなら良いけど。まぁっつーことで、また明日な」
「あぁ」
電話を切り、近くのベッド横にある充電ケーブルを、スマホに差し込む。
外は月明かりで照らされているが、カーテンで遮断している俺の部屋には届かず真っ暗だった。
委員会での一件、元をたどれば俺が原因に行き着くのだ。どう考えても金崎が悪いのだが……自分も多少なりとも関係していると考えると、やはり気になってしまうものなのだ。
とりあえず、考えていても仕方がないので、ベッドに横になり、俺は寝る体制を取る。
寝付くのが早いので、いつもなら布団に入って二分かそこらで寝落ちするはずだが……なかなか寝れない。
目が冴えてしまっていた。
こんなときは気分転換に外へとお散歩に行くのがアニメの鉄板なので、俺もそれを参考に夜の住宅街へと繰り出すことにした。
大抵、こうやって近所を散歩していると、気がつけば悩みのタネがたくなったり、可愛いヒロインと遭遇!なんてイベントがあったりするものだ。
そこら辺に脱ぎ捨ててあった服にパジャマから着替え、俺は自宅の玄関を開けて外へと出た。
外へと出ると、あたりはもうすっかり暗くなり、活気のある繁華街などではない、ただの住宅街であるここは、しんと静まりかえっていた。
月明かりと街頭、家々から漏れ出る暖かな光が、真っ暗な夜道を照らしていた。
とりあえず、行く宛もなくあるき回ることにした。夜十時の住宅街を徘徊するただの不審者に見える……いや実際にそうなんだが……
ポケットに手を突っ込み、あーでもない、こーでもないと考えながら歩いていると、まえから人影が見えた。
「……天音ちゃん?」
近づいてきた人影の顔がうっすら見えた、とても見覚えのある顔であった。
そう、俺と同じく深夜徘徊をしていたのは天音ちゃんなのであった。
けれど、天音ちゃんはなぜか制服姿であった。おそらく、あれから家に帰っていないのであろう。
「あら、峯岸くん……こんな時間に何をしてるの?夜の住宅街をうろつく不審者なの?」
天音ちゃんは学生カバンを盾のようにし、俺から距離を取る。
どの口が言ってんだよ、と思うが、先日からずっと迷惑をかけているのだ。ぐっと言葉を飲み込む。
「天音ちゃんこそ、こんな時間にどうしたの?まさか、夜遊び?」
少し茶化すようにそう言うと、天音ちゃんが俺を鋭い目つきで睨んだ。
「塾よ。夜遊びだなんて、そんな低俗なことするはずがないでしょう。それに、質問を質問で返さないでくれるかしら?言葉のキャッチボールもできないの?私の投げたボールを無視して新しいボールを投げ返さないでほしいわね」
天音ちゃんのいつものツンを見れて、少しホッとしたような気がした。
それにしても、天音ちゃんは塾帰りなのか。夜遊びだと疑ったことは反省しよう。
「俺は……まぁ夜の散歩に?」
「やっぱり夜の住宅街をうろつく不審者じゃない。即刻日本の平和のために野垂れ死んではくれないかしら」
……なんだか、天音ちゃんのツンがいつにもまして強いように感じるのは俺だけなのだろうか。
なんなら、ツンを通り越してドSのレベルまで来ているような気がする。
そして、何だか天音ちゃんの一文一文が長い気がする。それにいつにもまして攻撃の威力が高いような。
なにそれ、魔法詠唱みたくしっかり詠唱すれば威力あがんの?
「夜の住宅街をうろつく不審者なのは認めるよ」
「この男、開き直ったわね……」
天音ちゃんの目は、相変わらずゴミを見るような目をしていた。




