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第55話 自宅にて

「ただいま……」


 重い足を無理矢理持ち上げ、俺は自宅へと帰還した。

 脱いだ靴を揃えて下駄箱へしまい、リビングの方へと向かうとそこには美也の姿があった。

 Tシャツにハーフパンツとかなりラフな格好をし、ソファに寝転びながら携帯ゲーム機をポチポチといじっていた。

 お風呂上がりなのか、体は若干火照り、髪も少し湿っていた。


「ん、おかえり。お兄ちゃん」


 美也はゲーム機から目を離すことなく、俺にそう告げた。

 ソファに寝っ転がっている美也の隣に、腰を下ろした。

 すると、美也は漂う負のオーラを感じ取ったのか、ゲーム機から顔をバッと上げ、俺の方を向いた。


「お兄ちゃん、なんかあったの?いつもよりテンション低いというか。いつもだったら『そんな無防備な格好してるとお兄ちゃんが襲っちゃうぞ』とか言うのに」

「いや言わねぇよ?俺一度もそんなこといった覚えないけど?」


 すかさず反論し、俺の方を向く美也の頭をペシっと叩いた。

 美也は「ごめんごめん」などと軽口を叩き、再びゲーム機へと向き直った。


「そういえば、今日は真希さんと会ったよ」


 美也が足をパタパタと上下し、ゲームに熱中しながら俺にそういった。

 

「真希となんかあったのか?」

「いや、今日お兄ちゃんは運動会の実行委員会だからって言うのを聞いてさ。お兄ちゃんが実行委員なんて珍しいね」


 珍しいとはなんだ。俺がそんな不真面目でふしだらな人間だと思うのか?

 ……いや、不真面目でふしだらではあるのか?


「姉ちゃんに無理矢理やらされたんだよ……なんか遅刻した罰とかでな」


 今思ってみたら、この罰結構重くね?俺の貴重な放課後の時間を奪うとか、むしろ犯罪だろ。

 新しく日本にはこれを罰せる法律を作ってほしいところだ。


「ふーん」

「いや反応薄いな。お前が始めた物語だろ?」


 すると、美也は突如閃いたような顔をした。

 美也がこんな顔をする時はろくなことがない。美也が閃くと、隠しておきたい秘密とかを完璧に言い当ててくるのだ。いや、もうお前探偵にでもなれよ。


「あ、まさかその実行委員会でなんかあってテンションが低いの?」


 図星である。正直、もうあのことは思い出したくないのだが……だが、いずれ何かしらあるのだろう。

 なんせ、あの金崎を敵に回したのだ……って、別に俺は授業出てないしそんなに支障はねぇか。

 でも、天音ちゃんや八坂は何かしら金崎にやられるのだろう。

 所詮、一端の女子高校生にできることなど限られている。だが、同じ女子高校生だからこそ、嫌なことや痛いところなどを的確に突くことができるというものだ。


「まぁな」


 風呂に入るため、ソファから立ち上がりながら美也にそう言う。

 普通に説明するのが面倒だったから逃げたいと言うのが本心なのかもしれない。

 だが、俺が立ち上がって脱衣所へと向かおうとすると、美也がズボンをつまんで引っ張るかのようにしてきた。

 顔を向けると、美也はじとっとした目で俺を睨んでいた。


「まだ話終わってなんだけど?」

「風呂入ったら多分してやる」


 美也を振り解き、急いで脱衣所へと逃げ込み、鍵を閉めた。

 

 * * *


 風呂から出てリビングへと向かうと、そこには美也だけでなくソファにだらっと身を預けてアイスを食べている姉ちゃんの姿もあった。

 タオルを首にかけ、風呂から出てきた俺を姉ちゃんが睨んだ。


「伊吹、どうしてくれるんだ」


 恐らく、先ほどの実行委員会でのことであろう。

 無言で姉ちゃんの隣に座り込んだ。


「どうすれば良いんだろうな」

「お前ってやつは……」


 俺がそういうと、姉ちゃんは頭を抱え、大きなため息の後にそういった。

 仕方ない。中学の時だって勉強ばかりでほとんど人付き合いなどしてこなかったのだ。

 

「知らん。がんばれ」

「えー。絶対知ってるだろ、それ」


 姉ちゃんは、俺を突き放すようにそういうが、俺もすかさず反論の姿勢をとった。

 って、よくよく思えば反論できる立場じゃないんだよな。そもそも俺が主な原因でこうなってるわけだし。

 なんなら担当の姉ちゃんに迷惑をかけてる身だからな……


「いや、いい」


 先ほどの言葉を取り消し、逃げるようにして自室へと向かっていく。

 その間も、美也は空気を読んでくれたのか、はたまた興味がないのかはわからないが、ゲーム機から目を外すことなく終始もごんでいてくれた。

 リビングで聞こえるのは、美也のゲームから聞こえる電子音と、姉ちゃんがアイス片手に飲んでいるビールを飲み込む音だけであった。

 

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