第54話 実行委員会にて〈その四〉
その後の実行委員会は、まるでお通夜のような雰囲気で執り行われた。
前回までのようなわいわいキャッキャした雰囲気はなく、全員がシーンとして机の下の自分の手をじっと見つめていた。
一方で、金崎たちは委員長である八坂と副委員長の天音ちゃんの指示を徹底的に無視し、手元のスマートフォンをポチポチと操作していた。
「えーっと……実行委員が考える運動会の種目なんですけど……なんかいい案ってありますか……?」
八坂が気まずそうに、弱々しい声で他の実行委員たちに問いかける。
けれど、誰一人として手を上げない。いや、案はあるのだろうがその案を挙げられるような雰囲気ではないのだろう。
もしここで手を上げようものなら、恐らく金崎に目をつけかねられない。
金崎がこの学校の二年生のスクールカーストや人間関係の実権を握っていると言っても過言ではないくらいなのだ。恐らく、ここで目をつけられた俺たちは金崎に何かをされるはずだ。
一周回って何されるのか興味が湧いてきたな……
「……自分で考えりゃいいじゃん」
金崎は一瞬だけスマホから目を離し、八坂のことを睨みつけながらそういう。
睨まれた八坂は「ひっ……!」と弱々しい声を出して金崎と目線を逸らす。
そのとき、瞬時に天音ちゃんが金崎と八坂の間に割り込んできた。
「ここは実行委員会、全員で案を出し合って決める場よ。話し合いに参加する気がないのなら帰ってもらえるかしら?」
天音ちゃんもすかさず金崎を睨み返す。
金崎も今までのように天音ちゃんに怯まず、席をすっと立ち上がって机の横にかけられていた自分の鞄を手に取った。
「帰ればいいんでしょ?」
金崎はそのまま教室後方のドアへと向かって歩みを進めた。
……どうしたものか……こんな状況になってしまったら実行委員会どころではない。
金崎が教室から去ろうとすると、八坂が静止した。
「ま、待って……!まだ委員会の途中……」
「……」
金崎は八坂の静止をガン無視し、無言で教室の扉を乱暴に開け閉めし、教室から出ていった。
その後、金崎の後を追うように金崎の一味も扉を開けて出ていった
教室にはしばしの静寂が訪れた。
聞こえるのは外からの車の走行音のみであった。
少しして、教室の端の机に座ってノートPCを広げて作業をしていた姉ちゃんが、痺れを切らして立ち上がった。
「今日はもう解散だ。また明日も実行委員会があるから遅れずにくるように」
姉ちゃんはそういうと、足早に教室からさっていった。
姉ちゃんが出ていった後の教室は、何やら気まずい空気が流れ、出るに出られない状況であった。
そんな時、ある一人の女の子が静かに荷物を持って立ち上がった。
そう、その子とは天音ちゃんであった。
「……」
教室から出て行こうとする天音ちゃんを無言で見つめていると、天音ちゃんはキッと俺のことを睨んだ。
「あなたも帰りなさい。ここにいても、何もないわよ」
天音ちゃんは俺にだけ聞こえるような小さな声でそういうと、教室の扉を静かに開けて出ていった。
俺も、それはそうだと思い、机の横にかかっている鞄を手に取った。
その間も、八坂を含めた、他の連中はしんと固まっているのみであった。
俺が立ち上がると、それと同時に他の奴らも動き出し、無言で帰る準備を始めた。
俺はそんな気まずい空気の流れる教室を背にして、扉を開けて廊下へと出た。
「待って……伊吹」
その瞬間、後ろから弱々しい声が聞こえた。
声の主は八坂であった。振り向いて八坂の顔を見ると、目にはうっすらと涙が浮かび、やや俯き気味であった。
「……どうした?」
「いや……その……ごめん……」
八坂の声は、後半にいくにつれて徐々に徐々にと小さくなっていった。
いや、どちらかといえば謝らないといけないのは俺のほうだ。そもそも、俺が八坂と絡まなければこんなこと起きなかったのだ。
「いや……俺こそ悪かった……」
俺と八坂の間に、少しの間気まずい空気が流れた。
そして、その沈黙を破るように八坂が、俺に向かって「また明日ね」と優しい笑みを浮かべて言った。
「……あぁ、また明日な」
もう一度扉の方を向き直り、そのまま外へと出ていった。
廊下に出ると、もういい時間なので生徒はほとんどおらず、静かな空間が広がっていた。
明日からどうなるのだろうか。
ほとんど教室にもいかず、屋上でサボっている俺にはほとんど無問題だが、八坂と天音ちゃんはどうなのだろうか。
……俺は今後への不安を抱えつつ、今日はとりあえずまっすぐ家に帰ることにした。




