第53話 実行委員会にて〈その三〉
「文句?」
天音ちゃんがキッと鋭い眼光で金崎を睨みつけた。
金崎だけでなく、周りにいた連中も天音ちゃんの覇気に怯え、少し縮こまってしまった。
流石っすね、天音ちゃん。
だが、ここで怯んでは一軍の女王としての威厳が保てないのか、金崎はなんとか心を落ち着かせて、天音ちゃんに立ち向かった。
すげぇぞ金崎、もはや尊敬してきた。
「えぇ、文句だらけよ」
天音ちゃんは続けてそう述べる。
かなりヒートアップしてきたな。で、当事者のはずの俺はこんな傍観者をしていて良いのだろうか。
いやダメだろ……でもすんません。天音ちゃんと金崎が怖いんです。すんませんヘタレで。
金崎はそんな天音ちゃんの言葉に今度こそカチンと来たのか、先ほどの八坂を睨むときのような目つきに戻った。
「何、文句って?言ってみなよ」
金崎が天音ちゃんを威嚇するようにそう言う。
あまりの剣幕に俺も身をすぼめてしまった。びゃー、怖い怖い。
すると天音ちゃんは、やや斜め下を向きながら「はぁ……」と深いため息を吐き、金崎の方を向き直った。
「そもそもここは、あなたの低俗な罵倒を述べる場では無く、運動会の実行委員会なのよ?それに、あなたがそんなにピリピリしていると、周りの空気も悪くなるの。わからないかしら?」
天音ちゃんの言葉には、一言一言鋭い棘があった。
天音ちゃんの言うことはもっともだ。金崎も反論ができないのか黙り込んでしまった。
それもそうだ。この場において金崎の味方は金崎の一味の八坂を除いた五人のみだ。それに。天音ちゃんは正論をぶつけてきた。正論に矛盾で歯向かえるわけがないのだ。
「あんたのそういういとこ、ホントにムカつく!」
「論点をずらさないでもらえるかしら?それに、さっき述べた言葉の意味が分からなかったのならもう一度説明してあげてもいいのよ」
……天音ちゃんの声は少し上ずり、なんだか楽しんでいるように思えた。
いやいや、天音ちゃん。格下の相手をいじめる快感を味わってないでとっとと終わらせてくださいよ。
天音ちゃんの言葉を聞いて、金崎はさらにヒートアップしたのか、金切り声のように必死に天音ちゃんに反論した。
「うっさい!別にもう一度説明なんかいらないっつーの!」
「うるさいのはあなたじゃないかしら。獣のように吠えないでほしいところね」
天音ちゃんの一言一言は、金崎のプライドと堪忍袋の緒をズタズタに切り裂いていった。
ほんと、嫌いな奴にはとことん言うんだな。まぁ、俺もその嫌いな奴の中に入ってるんだけどな。
……なんだろう。ここまで来たら一周回って金崎がかわいそうに思えてくる……いや、思えないわ。
金崎は、天音ちゃんの猛攻が激しすぎるせいか、はっとした顔をしながら固まってしまった。
金崎は天音ちゃんの怒涛の罵倒を消化しきれたのか、天音ちゃんをもう一度睨みつけた。
「ほんっとうざい!」
金崎はもう論理的な反論ができないのか感情的になってもう一度叫んだ。
そもそも、金崎は天音ちゃんと頭の出来が違うのだ。天音ちゃんに純粋な口論で勝てる人間なんて数少ない。
俺だって勝てたことがない。って、天音ちゃんが呆れてまともな口論にすら発展しないか。
「反論もできないのなら大人しくしてもらえるかしら?あなたと話している時間が無駄なのだけれど」
金崎は、そんな天音ちゃんの言葉で堪忍袋の緒が切れたのか、自分の横にあった机を「バン!」と叩いた。
ものに当たるとか、典型的な能無しの発想だな。口論に負けたからって逆切ギレれかよ。
って、この口論の当事者に近しいというか原因ともいえるのに参加してない俺の方がだめじゃねぇかよ。
「ものに当たるのはやめなさい。それはあなたのものではなく学校の備品よ」
「……!」
天音ちゃんがそういうと、金崎は顔を真っ赤にしながら睨みつけた。
金崎も大人しく引き下がればよいものの。自分でも、天音ちゃんとの口論で勝ち目がないとわかっているのだろうに。
でも、金崎の一軍女子の頂点としてのプライドがそれを許さないのだろう。
泣いたり、逃げたり、ほかの人に助けを求めることもできない。なんせ、自分は誰よりも偉く、全員の頂点に立っていると思い込んでいるからだ。
外見とコミュ力だけでちやほやされ、舞い上がってでもいるのだろうか。
金崎がそろそろ天音ちゃんに殴りかかりそうな雰囲気が漂い始めたとき、教室前方の扉が勢いよく開いた。
「席につけ……って、何事だ?」
そんな間抜けたことを言いながら入ってきたのは姉ちゃんであった。
姉ちゃんは腕を組みながら金崎を睨みつけている天音ちゃんと、机に手を付けて激昂している金崎を交互に睨んだ。
……ここにいるやつら睨むの好きすぎだろ。
天音ちゃんとか野生界に行っても覇気だけでライオン仕留められそうだ。
「いえ、ちょっとした叱責を。この場で騒ぐのはあまり褒められた行為ではないと忠告をしたまでです」
天音ちゃんは姉ちゃんを、見ながら冷静にそう述べる。
姉ちゃんは天音ちゃんを信頼しきっているので「そうか。金崎もあんまり騒ぐんじゃないぞ」というだけであった。
金崎は姉ちゃんの言葉に従い、天音ちゃんを睨みつけて舌打ちをしながら自席へと着席した。
……なんとか収集がついたか。……って、やり切ったみたいなこと言ってるけど俺、なんもしてないんだよな。
ただの傍観者Aだったわ。ごめん、八坂。そしてありがとう、天音ちゃん。最後に、くたばれ、金崎。




