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第51話 実行委員会にて〈その一〉

 その日の放課後、終業のチャイムが鳴ってから十分ぐらいしただろうか。

 屋上へと向かってくる一人の足音が聞こえた。

 恐らく八坂が俺を呼びにきたのであろう。俺は横に置いておいた学生鞄を手に取り、立ち上がった。

 前の天音ちゃんみたくドア前に立って脅かしてやろう。

 それと同時に、八坂が優しく、いつもよりも弱めに扉を開けて屋上へと入ってきた。

 やはり、俺の読みは外れていなかったか。


「伊吹。呼びにきたよ……ってうわ!」


 八坂は、ドアを開けた瞬間、目の前に突っ立っていた俺に驚き、危うく後ろから階段を転げ落ちそうになった。

 なんとかバランスを取り、体制を立て直すと俺の方を向いて「はぁ……」とため息を吐いた。


「もう、驚かせないでよね?危うく落ちるところだったじゃん」


 八坂は、昼休みのときのように元気のない感じではなく、いつも通りの陽気な八坂に戻った。

 よかったのだろうか?まぁ、暗く落ち込んでいるよりはマシだ。少々手荒だったかもしれないがよしとしよう。

 

「すまん。俺の子供心というか悪戯したい精神がくすぐられてな」


 訳のわからない言い訳だったが、なぜか八坂は「じゃあ仕方ない」なんて言って、くるりと百八十度回転して階段を降り始めた。

 え?今ので納得するの?頭がいいんだか悪いんだか。

 階段をゆっくりと戻っている八坂を見ると、先ほどまでは元の八坂に戻ったと思っていたが、その背中からはどこか哀愁を感じさせる。

 何をそんなに悩んでいるのだろうか。俺は不思議で仕方がなかった。

 とはいえ、人の秘密を聞き出すのは人として最低な行為だ。

 そんなこと俺にできるわけ──


「なぁ八坂、なんか悩みとかあるのか?」


 ……好奇心に負けてしまった。

 いや、これは好奇心などではなく、友達を思う気持ちという物なのだろう。そうだ、それに違いない。

 俺は八坂が心配だったのだ。

 ……という言い訳を心の中で並べ、俺は先ほどの自分の行動を正当化する。

 すると八坂は、驚いたようにこちらを振り返り、少し焦り気味に反論に出た。


「い、いや?どうしたの急に?ぜ、全然そんなことないよ……」


 何だか怪しいな。

 少し元気がないというか。なんというか。

 八坂のその声は少し上擦っていた。若干動揺しているように見えた。

 少し心配だが……でも、ここでもっと踏み切ると言うのは野暮だろう。

 黙っておこう。まだ、その時ではないのだ。……多分。


「何かあったら遠慮なく言えよ」


 柄にもなく、少々そんなかっこいいことを八坂に言ってしまった。

 すると八坂は、少しだけ笑顔になって「ふふっ」と笑いながら口を開いた。


「何それ?彼氏気取りかなんか?」


 ……我ながら、さっきの発言を今すぐにでも撤回したい。だって恥ずかしいから。

 すみませんね、ただの好きな人と付き合うための踏み台である俺如きがカッコつけちゃって。


 そのまま俺達は無言で階段を降りていった。

 窓から差し込む徐々に赤くなり始めた陽の光が俺たち二人を照らしていた。

 降りてすぐのところに委員会を行っている教室があるので、八坂の先導の元、教室の中へと入っていった。

 教室に入るとまだ生徒はまばらだったが、八坂の所属する陽キャ集団はすでに教室にいた。

 教室後方窓側の席を陣取り、何やら大声で談笑している。

 俺はそんな陽キャ集団に触れることはなく、教室前方の一番端の席に着席した。


「あ!芽衣奈じゃん!また峯岸とか言うやつのお世話係?本当大変だね」


 あれから、あの陽キャ集団のリーダー的存在である金崎明美かねざきあけみとか言うやつの俺への嫌がらせは加速し始めた。 

 実行委員会の回数を重ねるごとに俺への言葉は酷くなっていった……まぁ、天音ちゃんよりはまだマシだけどな。

 あれには冗談とかないから。うん、目がガチだもの、天音ちゃんは。

 俺はため息を吐いて、金崎たちの会話を見て見ぬふりをする。

 

「なんかあれだよね。もう一周回んなくても気持ち悪くね?あの峯岸とか言うやつ」


 金崎を含めた男女四人組が、俺の方を見ながらそう嘲笑う。

 あーいやいや、こう言うのがいじめに発展するんだよな。ほんとよくない。いじめダメ絶対。

 いくら偏差値の高い進学校でもこう言う奴はいるんだなと、少し残念に思った。

 だが、ただ一人だけ。八坂だけは何やら浮かない顔をしていた。

 気を使っているのだろうか。別に俺になんて気を使わなくてもいいのにな。

 こういった交友関係には共通の敵というものが必要なのだ。八坂も、金崎たちに乗っておかなくていいのだろうか。特にこう言う年齢の女子高生は「スクールカーストが何だか」とか言って、スクールカーストを気にする物だが。

 まぁ、八坂はいい子なんだな。


「そ、そうかな……?」


 八坂が、金崎たちに遠慮がちにそう声をかける。

 本当なら「もっと言ってやれ!」とか思うのだろうが、こんな恋の手助けをしているだけの踏み台の人間に気を使わなくてもいいのにな。 

 つくづく八坂はいいやつだな。

 俺が頬杖をつきながら大口を開けてあくびをしていると、何やら遠慮がちに八坂が金崎達に話し始めた。


「……あ、あのさ……みんな伊吹のあんまし知らないんだし……そーゆうこと言うのはよくないかな……なんて……」


 八坂は、気弱で小さな声で、まるで独り言のようにそう言った。

 ……驚いた、まさか八坂が金崎達じゃなくて俺側につくとは。

 絶対に帰ってこないと思ってたメロスが帰ってきた時の王様の心情ぐらい今驚いてるぞ。

 俺は、目を見開き、金崎と八坂の方を向いた。

 すると、何やら金崎は険しい表情をし、八坂を睨みつけていた。

 ……やめて二人とも!俺のために争わないで……!って、「ために」じゃなくて「せいで」か。

 八坂が縮こまってモジモジとしていると、金崎が「ッチ」と舌打ちをしながら口を開いた。 

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